男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。
テレビも含めて、若者から‟みんなで一緒に!”という感覚がなくなってきた
太田さん(以下敬称略)現在80代の女性弁護士の先輩ですが、1980年代に性暴力被害者支援団体に関わられて、民事裁判で強姦被害者がどれくらい損害賠償を受けているか調べたら、当時はそもそも強姦被害者が原告の裁判例自体がとても少なく、探すのに大変苦労したそうです。今以上に、性暴力被害者が声をあげるなんて考えられないという感じの時代状況だったのですね。
ですので、今、勇気を出して実名で自分の被害を告発し、それによって他の方も「私も勇気づけられました!」と声を上げるようになっているのは、本当に隔世の感があります。少しずつですが、時代は良くなっていると実感しています。
先日、友達と話しをしていたのですが、90年代あたりのテレビバラエティー番組は、今ではとても流せないようなことをやっていたよね、と。お笑い芸人さんが人気女優に、猥褻で卑猥な言葉を言わせたり、殴ったり、蹴ったり……。女優さんに「私はメス豚よ~」などと言わせていたり……。そんなコントを見せられて「何が面白いんだろう」と思って。今は絶対できないでしょう。
ライター東 できないです!
太田 衝撃的だったのが、服の上からといっても、女性タレントの股の間に男性タレントが顔を埋めていたり、女優の着ているシャツを広げて、胸元に卵液を流し込むなどという場面までありました……。
若くて綺麗な女性をいじめることを娯楽化し、「面白いことなんだ」ということにしていたと思うんですけど、もう単なる尊厳を貶めている行為でしかなくて……。
今は、テレビでそういうことができなくなったから良くなったと思うと同時に、おそらくその頃に制作現場にいた人たちは、今50~60代ぐらいの人たちは、まだ現役として組織の上のほうにいるんじゃないかと思いました。今重要な意思決定にいる世代が若い時の社会の価値観って、かなり問題だったと思うんです。それを自覚して意識的にアップデートしていけていればいいですけど、なかなかそういう人ばかりでもないでしょう。だから、その時代の価値観がまだなかなか組織からも完全に抜けきらないところもあるんじゃないでしょうか。
東 テレビの世界は特にそういうのが多かったですよね。実は私、昔は構成作家として12年間テレビの現場で働いていたんです。当時は本当に男性上位時代。“女の子”というだけで逆に仕事が来たり、番組の会議や飲み会の席では必ずいじられる。そんな役割がなんとなくできあがっていて。下ネタ関係のことをいろいろやらされたり、言わされたり、といったことも現場では結構ありました。ただ、男性同士でも酷くて、当時は先輩ADが後輩ADの頭を台本で叩いたり、どなったり、といった光景もよくあり、傍で見ていて心が痛かったです……。男性も大変でした。
ですが、今のテレビ局や制作会社はコンプライアンスが厳しいから、TVプロデューサーの友達に聞いても「そういうのはなくなった」と語っていました。当時、威張っていた50~60代は、制作現場から外れている方が多いです。最近では、性に関するコーディーネーターもいて、撮影がしやすくなりましたよね。
太田 「インティマシーコーディネーター」のことですね。いいことですよね。
東 男性の制作陣が多いテレビの現場ですが、とても良い方向に変わってきたなと感じます。
田中 ただ、今の中・高校生や若者は、テレビをほとんど見ない……。
太田 そうなんです。動画やYouTubeばかりです。
田中 この連載は〈これからの男の子の育て方を考える〉がテーマですが、その中で考えると、テレビで良いコンテンツが出てきても、あまり意味がないことを危惧しています。テレビに影響力がなくなっています。
友達とのLINEや、YouTubeでは、僕ら大人たちが全く知らないような人のものばかりを見るようになってきているので、テレビだけが良くなってきていても、あまり希望がないのかと……。
東 田中先生が言っていることもわかります。ちなみに、うちの息子が今、ハマっている動画に‟THE昭和な体育会系高校野球部の風景”のようなものがありまして(笑)。グラウンドで監督が生徒たちに向かって「アホボケ! お前ら何やってんねん! 10週走って来いや!」というようなもので(笑)。
太田 えっ! 何それ。リアルなもの?
東 いえ、コント風です。20代ぐらいの若者が数人でYouTubeでアップしているのですが、それを息子はどういう気持ちで見てるのかと思って、私も横に並んで見ていました。今のところは、どうも「ただ単に面白いだけ」で見ているようです。「喋り方が面白い」「監督に対する生徒たちが面白い」とか。でも、それが再生回数、何万回というぐらいの人気コンテンツなんですよね。
太田 「昭和ネタ」をおちょくっているような?
東 そうです。今、こういうことをするのはダメだとわかってるうえで、息子は面白いと思って、ひとつの娯楽として見てると感じました。
私たち世代からすればイヤな記憶が出てきますが、子どもたちにしたら、なんか別なジャンルなんでしょうね……。
太田 私たちからすると笑えないですからね。
東 そうなんですよね……。一方で、子どもたちは本当にテレビを見ないです。
太田 たまたま好きなコンテンツがあったら見る。「『SPY×FAMILY』見よう!」という感じですよね。
田中 テレビを見るとしても、今は昔のように「みんなで一緒に!」といった感覚が若者にはないです。女子学生と話しをしていると、『SPY×FAMILY』はみんな見ているようなのですが、放送時間にリアルタイムで見ているわけではないんです。それぞれがスマホで好きな時間に見ている。昔なら〈月曜9時からあのドラマがあるから、火曜日にはその話をしよう〉といったものがありましたが、今は違う。
それも含めて、子どもに対して気になっているのは、「みんなで一緒に!」という経験が圧倒的に少なくなっていることです。
太田 クラスターごとのような感じですね。
田中 おっしゃるとおりです。
東 確かに子どもたちのコミュニケーションスタイルが、以前とはとても変わったような気がします。
取材/東 理恵
弁護士。中2と小5男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわる投稿が反響を呼ぶ。昨年、SNSの投稿をきっかけに出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。
田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では7歳と3歳男児の父。