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Lifestyleママとパパに贈る「ジェンダーレス学」

会社の平均寿命より、人間の平均寿命のほうが全然長いということを知っていますか?【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.17】

進みつつあるジェンダーレス社会について、私たち親は、娘や息子たちにうまく説明できるだろうか? ジェンダー研究の第一人者に聞きます。

【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.16】“人生多毛作時代”になった今、50歳からが「女の人生黄金期!」です。

「超高齢社会と男女」について②

Q.上野さんが50代のときに購入されたという八ヶ岳の家では、どんな暮らしをされているのですか?

田舎に行けば、都会でマンションを購入するより安い値段で自分の好きな家が建てられます。さらに生活費は安いし、土地は山のようにあるから家庭菜園を楽しんで、食べきれないほどの野菜を作ったり、ご近所さんからいただいたり……。わたしは書庫を建てて、そのなかで書いたり読んだりしています。仕事はほとんどオンラインでできますし。
春夏秋冬、本当に八ヶ岳はいいところです。

Q.確かに環境は良いですよね!

今、八ヶ岳のあたりは代替わりの時期にさしかかっています。私たちより少し上の世代の人たちは、かつて気合いを入れてこだわりのある別荘を作りましたが、その子どもたちがもうこちらに来ないので売りに出ています。1,500万円ぐらいで土地付きの中古の別荘が買えます。
もともと都会からの移住者が多く、生活するうえでも適度な距離感を保つオトナのつきあいですね。プライバシーに踏みこんでこないのもいいところですね。

人生100年の時代は、時代の変化よりも人の一生のほうが長い。

私が最近、若い人たちに言うのは、企業は“なまもの”だということ。東京商工リサーチの調べによると2022年に倒産した企業の平均寿命は23.3年。業種別でいうと、最も長い製造業でも35.7年でした。企業の平均寿命より、人間の平均寿命のほうが全然長いんです。
(*そのデータはこちらに➡http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20230216_02.html

だから、自分を時代の変化に合わせてバージョンアップしていくことが大事。
既に〈ラーニングソサエティ=生涯学び続ける社会〉なんです。
「若い時どこそこの大学へ行ってこんな勉強をしました」では終わらないのです。

Q.その後、何をしたか? ということでしょうか?

学ぶことの内容がどんどん変わっていくから、それを自分で身につけていくことです。
変化にキャッチアップできない人は時代に取り残されます。

Q.ところで、上野さんの最近の大ベストセラーに『在宅ひとり死のススメ』がありますが、私の実家近辺が、夫に先立たれた独り身の方ばかりなんです。

私がこの本を書いた理由は2つあります。
1つは「加齢」です。自分自身が歳を取ってきたこと。
2つめは、私が家族のいない「おひとりさま」であること。「だから後をお願いね」と、誰かに任せる相手がいないことです。
あなたが言う「夫に先立たれた独り身」の女性たちには子どもがいますよね?
離れて暮らしていても、SOSの電話をしたら来てくれるんじゃないの?
子どもを呼びつける親もいます。

Q.でも住んでいる場所が遠いと、なかなか子どもも親元に行けないですよ。

それで「私のところにめったに来ない!」と罵る親もいるわよね(笑)。
一方で、子どもの側からは「寄りかかられて困っている」という人も。

Q.いますね。

子ども側は罪悪感を感じながら、親から愚痴もいっぱい聞かされます。

Q.でも、男の人には「ひとりで死ぬのはイヤだ」という人が多いですよね。

男性にはひとりで死ぬことを想像してない人が多いんじゃないかな。「妻より先に死ねる」と思いこんでいるから。

Q.なるほど。想像できない……。

あの人たちは思考停止しているだけです。
「何とかなるやろ。誰か看取ってくれるやろ。ひとりになることはないやろ」と思っているのでしょう。

男女共同参画白書 令和4年版(内閣府 男女共同参画局)より

これは配偶関係のグラフです。「赤」が有配偶者、「青」が非婚者、「紫」が死別、「緑」が離別シングルです。

女の人は歳を取ると有配偶率がぐっと下がります。それに比べて、男は歳をとっても有配偶率がそれほど下がらない。妻が長生きするから95歳ぐらいまで生きている男の半分ぐらいに妻がいます。
だから彼らは〈ひとりで死ぬことはないだろう〉と思っている。
最近、おじさん雑誌『週刊ポスト』や『週刊現代』が「死ぬまでセックス」の特集と共に、こぞって男が“ひとりになったとき”を想定した特集をしていますが、その内容が面白い。
その中には「やってはいけないことリスト」が出てきます。「再婚するな」「家を手放すな」「老人ホームに入るな」「子どもに財産を残すな」と。
介護保険が始まった頃の考えとは全然違う。こんな短期間に常識が変わってきたのです。

Q.その話を聞いたら、私が若い頃にあった雑誌『ホットドッグプレス』を思い出しました(笑)。男の人って、そういったマニュアルが好きですよね(笑)。

昔はその内容が真逆でした(笑)。
高齢者向けの記事では「家を売って、老人ホームに入ろう」「子どもに生前贈与をしよう」とありました。それしか選択がないと思われていたからです。
でも、おじさんたちは施設に入るのが大っ嫌い。「自分の身体は家族にしか触らせない」などといって、ヘルパーさんが入るのを拒否する男性もいます。おばさんたちは、他人のお世話になることを予期していますので、そんな勝手は言いません。「最期は施設か病院」と覚悟しています。でも男女を問わず、施設と病院の好きな年寄りはいません。95歳まで男性の有配偶率は高いですが、そうなると妻も歳を取っているので「老々介護」になります。90代の妻だって要介護や認知症になっていますよ。
50代から後の半世紀を25年と25年に分けたら、最初の25年はちゃんと動けるでしょう。でも後半の25年はフレイル期として覚悟しないといけません。
日本男性はフレイル期の平均が8年で、女性は12年。
問題はフレイルになったとしても、家にひとりでいられたら、子どもたちに負担をかけずに済みます。
そのための条件として欠かせないのが「介護保険」です。

次回は「介護保険」の話をしましょう。

取材/東 理恵

上野千鶴子 1948年富山県生まれ。社会学者。京都大学大学院修了、東京大学名誉教授。東大退職後、現在、認定NPOウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長として活動中。2019年東大入学式での祝辞が大きな話題に。『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』など著書多数。
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