健康でいることが当たり前だった人ほど、ホルモンバランスの不調に面食らうことが多い更年期。住吉美紀さんはそれまでの〝健康意識貯金〟が効いた一人。更年期を穏やかに過ごせるかどうかは、それまでどれだけ自分の体の声を聞いてきたかで変わるのかもしれません。
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○ 住吉美紀さん(50歳・フリーアナウンサー)
毎日の生放送のために培った健康管理で
更年期を楽しくアクティブに
更年期を楽しくアクティブに
今年4月で50歳になり、まさしく更年期のど真ん中。でも今のところホルモンバランスの乱れによる不調はあまり感じていません。もともと新陳代謝がいいのか、汗はよくかきます(*1)が、ホルモンバランスとは無関係のようです。
でも、2020年の春、新型コロナウイルスが蔓延し始めた頃にいち早く罹患し、2週間入院している間に体重が5キロほど減りました。退院時にはエレベーターまで歩けないほど筋力も体力も激減。毎日生放送を担当しているため、周りに驚かれるほど体調管理を極めていたので健康には自信があったのですが、この時ばかりは体力が完全回復するのに8カ月かかり、心の底から健康第一だと痛感しました。
— NHKのアナウンサー時代にはその明るく朗らかなキャラクターや好奇心溢れるインタビューで人気を博していた住吉美紀さん。フリーアナウンサーになってからも、平日のラジオ帯番組を担当して現在12年目、キュートでヘルシーな人柄は幅広い年齢層から支持を得ています。ヨガ講師の資格を持ち健康意識がもともと高かった住吉さんは、更年期不調に陥る前にコロナの打撃で自慢の健康に赤信号がともったと言います。
今の夫と結婚したのが42歳。できれば赤ちゃんを授かりたいと、コロナ禍前くらいまで積極的に不妊治療をしていたのですが、結果的には授かりませんでした。でも、治療の間、健康のためにあれこれなんでも試し、〝健康マニア〟を極めました。
そこで感じたのが、女性の体にとってもっとも大敵なのは「冷え」だということ。冷えは万病のもと、とよく言いますが、東洋医学では、体が冷えて血の巡りが悪くなったり、水分の代謝機能が低下することでむくみが起こったりすると、精神やメンタルの活気がなくなることにも繫がるのだとか。若いうちから「更年期は怖いぞ」「普段健康でも用心しなきゃ」と思っていましたが、不妊治療時に培った知識や冷やさないための習慣が、更年期対策に役立っている気がします。
体を冷やさない方法としては具体的には「とにかく重ね着」「夏でもペチパンツやレッグウォーマー」「ストール必携」など。おしゃれは二の次(笑)。夏でもサンダルはほとんど履きません。40代から大好きになった着物には、冷やさないという意味での優秀さを感じています。お腹は帯に守られ、肌見せは最低限なのにおしゃれ、着付けは重ね着なので冷えません。
また、血行をよくするために体を動かすことも意識していますが、楽しくない運動は続きません。そういう点では、東京オリンピックの影響で始めたスポーツクライミングは楽しみながら汗をかき、肩凝りも楽になり、ストレスも発散できて、ハマっています。秋葉原にあるボルダリングジム「B-pump Tokyo 秋葉原」は12年前にオープンした、ボルダリングジムの草分け的存在。1階から4階まで様々な趣向を凝らした壁があって、ビギナーからハイレベルのクライマーまで満足できるよう設計されています。3階にはLEDが埋め込まれた、ブルガリアにオーダーした壁、屋上には空の下で開放的に登ることができる壁もあって今は海外からの旅行客からも人気のよう。週末の2~3時間、夫と一緒に壁を攻略する時間がとてもいい刺激になっています。
また、隅田川テラスで音楽を聴きながらのお散歩やランニングも、体と心が同時に満たされる時間になっています。
— 住吉さんのお話の端々に出てくるのが42歳で再婚されたご主人とのエピソード。ご主人は中央区新川で「ミアヴァート」という肉ビストロを営んでいらっしゃるそうで、そこで気の置けない友人たちとおしゃべりしながらのご飯会も住吉さんの元気を支えてくれているのだとか。お店では住吉さんが北米在住時代から好きなズッキーニブレッドを出していて、とても好評だといいます。
夫と結婚したことで、彼の故郷・岩手県との繫がりもグンと強まりました。岩手の美味しい食材に目覚めたのはもちろん、兼業農家である彼の実家の田んぼの田植えや稲刈りを手伝いに行くことも大好きな年中行事になっています。初夏の日差しの中、家族総出で田んぼに入って苗を植えるのですが、義母に長靴を履くように勧められても私は断然裸足派(笑)。裸足で田んぼに入る心地よさ、肌で自然を感じられる喜びは何にも代えがたいものがあります。自
然が大好きということで言えば、私は植物を育てるのも大好きで、自宅のベランダでは数十鉢の観葉植物などを育てており〝ベランダ植物園〟状態になっています。盆栽もいくつかあり、お気に入りはケヤキ。盆栽は観葉植物より手がかかるのですが、季節ごとの手入れをしながら可愛がっています。時々、自分がこのケヤキの根元に立って、頭上に広がる枝葉に包み込まれている妄想をしては癒されています。
こんなふうに木が好きなのは、父の仕事の転勤で、森林豊かなアメリカ・シアトルやカナダ・バンクーバーに幼い頃から暮らしていたからだと思います。父は木材貿易が専門で、私が25歳の時にカナダで急逝しました。父を尊敬していましたし、自分が見た目も性格も父に似ているという自覚もあり、仕事に行き詰まると「父だったらどうしただろう」と考えます。
そんな父は、今の私と同じ歳、50歳で会社から独立し、カナダにそのまま移住しました。大切にしている写真があります。仕事でカナダの山林を視察中の父が樹齢何百年もありそうな巨木の前で両手を広げて立っている写真です。私も、カナダや樹木が大好きなのですが、写真を見ると、やっぱり父に似ているのだな、と。その姿を見ては、今生きていたらどんな話ができただろう、と考えます。
— ご主人やそのご実家、そして亡くなったお父様。ご家族を大切にし、植物や飼っている4匹の猫との暮らしも楽しんでいる住吉さん。40代までの“健康意識貯金”で今は上手に自分の体と付き合えていますが、これからも体と心の健康を両立していきたいと語ります。
足を踏み入れて9年目となるお茶の世界も、私の生活になくてはならない元気の素です。護国寺は大寄せの茶会が毎年開かれる場所で、私が初めて参加した大寄せ茶会も護国寺、初めてクラスメンバーでお席を持たせていただいたのも護国寺です。それ以外にもお友達と都内のお茶会に足を運んだりしています。
毎週のお稽古も大切な時間で、ほどよい緊張感と心が浮き立つ感覚、そして室町時代から育まれてきた日本の文化を学ぶことが精神や感性を豊かにしてくれます。また茶の湯を学んでいると、仕事では出会えないようなコミュニティの方々とご縁が生まれて、世界がとても広がります。お茶やスポーツクライミングなど、私は心動くことを見つけてはとことん追求し、コツコツとその分野での経験や時間を重ねていくことがとても好き。
最近は韓国ドラマを観るのも大好きですが、その鑑賞方法も好きな俳優さんができたら、その方が出ている作品を遡って全作品制覇して、表にまとめたりしています(笑)。そうやって自分の興味のありかを知ってワクワクすることにエネルギーや時間を〝全振り〟することで、モヤモヤがつきまとう更年期を、前向きかつ穏やかに過ごせている気がします。
私は好きなものは好きだけど、嫌いなものはとことん興味がない(笑)のですが、そんな「自分のトリセツ」を歳を重ねるごとにアップデートしていけたら、ホルモンバランスに振り回されることなく、毎日を精一杯楽しんでいけるのではないでしょうか。
〈ボルダリング写真〉Tシャツ¥6,930(ザ・ノース・フェイス/ゴールドウイン カスタマーサービスセンター)*その他、お着物などは、住吉さん私物
撮影/田頭拓人 ヘア・メーク/庄司愛理(六本木美容室) スタイリスト/阪本幸恵〈ボルダリング分〉 取材/柏崎恵理 撮影協力/護国寺 ※情報は2023年9月号掲載時のものです。