親しみやすく明快な語り口で大反響の産婦人科医・高尾美穂先生とSTORYの連載ページ「更年期のクスリ」を長年担当してきたライター柏崎との対談連載。
ぼんやり知っているつもりだけれど「実はよく分からない」更年期のあれこれについて、柏崎が高尾先生に直球質問。今さら聞けない基本の「キ」にも丁寧に答えてくださり、なんとなく信じ込んでいた思い違いはバシッと斬ってくださる高尾先生のお話は胸がすく思い!
守り神・エストロゲン不在。でも、やっと訪れた人生のフリータイムです
高尾 閉経して10年〜20年ほどで亡くなっていた私たちのおばあちゃん世代は、平均寿命が70代前半くらいでした。それぐらいの人生であれば、そんなにいろんなことに困ることなく天国に召されてたわけです。でも、更年期以降の人生が長くなっている今の時代、せっかく医学や科学が進化している時代に生きる私たち世代だからこそ、この時期をよい時間にしたいと思うし、対策を練られると思うんです。
柏崎 おばあちゃんの頃、母の頃とも、かなり事情が違いますよね。
高尾 彼女たちは、体の中にエストロゲンが枯渇している事実を知らないまま、エストロゲンがしてくれていたことができなくなっていることに気がつかないまま、年齢を重ねていったけれど、私たちは気づくことができるし、知ろうと思えば知ることができます。以前は骨がもろくなって転んだら骨折しちゃいました、というような段階になって気がついた。コレステロールが高くなって、動脈硬化になって、血圧が高くなって、最終的に心筋梗塞が起こってしまうような段階でしか気づけなかったこともあるでしょう。
柏崎 確かに。
高尾 そうなる前に気づけるよ! ということなんです。まずは、できなくなっていることに気づく。私たちの世代は、これからも生理があった期間と同じくらい生きられるわけですから、きちんと対策をすること。
柏崎 つまり生理なしの余生が40年もあると。
高尾 まあ、余生というと身も蓋もないですけどね(笑)。
以前Twitterにも書いたんですけど、寿命や死亡に関するデータを見てびっくりしたの。女性の平均寿命は87歳なんだけど、亡くなる人数がもっとも多いのは女性だと93歳なんですって。
柏崎 えっ?(驚きで声も出ない)。気が遠くなる。
高尾 だから90歳以上まで生きる想定で、今から準備しておくことが望ましいです。今現在100歳の方たちって、すごく元気な方もいらっしゃるけれど、自立した生活が難しい方が多いじゃない? なんとなく長生きできてしまったような感じで。
柏崎 わかります。〈どうせもうすぐお迎え来るし〉と思っていたら、いつの間にかウン十年経ってしまった、みたいな……。
高尾 今は85歳の55%が認知症という状況ですけど、彼ら彼女らはそんなに長生きする予定で生きてこなかったとも言えます。
柏崎 そうですよね。母を見ていても、なんとなくロスタイムに入って〈いつ終わるのかなぁ、意外に長いなぁ〉みたいな感覚で生きている感じがします。
高尾 でも私たちは、“90歳生きられる”とあらかじめ知って生きていくことができるわけです。
柏崎 試合時間が長くなっているのは織り込み済みで生きなきゃダメですね。
高尾 そう。私たちの世代からは100年生きる覚悟で生きていかないといけない。
そう考えると、更年期なんていう時期は、たかだか折り返し地点。この折り返し時点で心折れてる場合じゃないよ、と言いたいわけです。
柏崎 ボーナスキャンペーンが終わって通常に戻り、〈さあ、ここから長いぞ、長い時間の入り口だぞ〉ですね。
高尾 そうそう。〈あと半分あるんだよ、やっと後半戦に入ったばかりだよ〉と。しかも子育てが終わって、やんなきゃいけないことも多くが終わって、フリーなんです。
柏崎 やっとフリータイムが来たんですね。〈女が終わって、さみしい〉なんて言ってる場合じゃない(笑)。後半のスタート地点に立ち、〈ここからが本当の勝負だぞ!〉と。
高尾 時間と体力はまだあるし、お金もある、という方は結構多いはずです。
柏崎 ここからが本当に“やりたい放題タイム”じゃないですか(笑)。生殖機能はなくなったし、守ってくれるエストロゲンは作れなくなったけど、女として、人間として、ここからが自立の本番。
高尾 エストロゲンが守ってくれた、ありがたい40年間にありがたいことがいろいろありました。これからは、できる人はホルモン補充療法をしたり、エクオールサプリメントを飲んだりしてみたらどうでしょう。意識の高いSTORY読者の方には、是非おすすめしたい。
柏崎 絶対にそうですよね。でも知識が中途半端でぼんやりしていて……。学術的な難しいことに向き合うのは面倒だし、何かに取り組むべきだと思うけれど、何をやればいいのだろうか――そんなレベルのところで足踏みしている人も多いと思います。知れば、1歩前に進めるのではないでしょうか。
高尾 知ることが大事ですよね。自分の体の内側のことって、意外と知らないで生きているかと思いますが、知ったら面白いですよ。それも自分のための学びだから、絶対惜しくない。
だってみんな、どう? 旦那のために使うお金は惜しいけど、自分のためのお金だったら惜しくないでしょ?
柏崎 先生、鋭い!
高尾 自分のために良いことを選ぶという意識がすごく大事です。下り坂ではあるけれど、自分のために良いことをできていることが自信になるんです。坂を下るのではなく、現状維持だけでも素晴らしい進化なのだから。
柏崎 先生、おっしゃるとおりです。
高尾 それを目指したらいいんじゃないかな。
柏崎 私たちも若返りたいわけじゃないんですよ。「変わってないね」と言われるのが褒め言葉ですから。
本当の天王山は閉経時。更年期を人生の後半のチャンスと考える
高尾 何度も言いますが、50歳の山をどう乗り切るか、後々の人生にどうつなげられるかが、大きな分かれ目です。
柏崎 でも40歳くらいまでの健康が、50歳以降、60歳以降も続くとは限りませんよね。それなのに、STORY読者を見ていると、どう若くいられるか、キレイになれるか、という観点で、若い人ばかりに目が行きがち。年齢を重ねてからの人生をどう健康に過ごすかということから目を背けがちな気がします。
高尾 きれいになることにアグレッシブなのはいいことだけど、人間は加齢や老化から逃れられません。
柏崎 そうですよね。自分の健康や元気を過信せずに、人生の後半戦のために手を打っておくことが大切です。更年期はその手立てを始める、気づくきっかけになる気がします。更年期症状がない人は、そのきっかけに気づくチャンスを得られないまま60代に入ってしまうかもしれませんから。
高尾 そうそう。更年期症状は、逆にいいきっかけとも言えるのよ。
柏崎 チャンスだと。
高尾 更年期をきっかけに、自分の健康や運動習慣、睡眠、人間関係、家族関係などを見直すことができれば、より豊かなこれからを楽しむことができるはずです。
更年期を、人生を再構築する足がかりにしてほしいと思います。
柏崎 先生、素晴らしいお話をありがとうございました。
撮影/西あかり 取材・文/柏崎恵理