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「自分ものさし」「頑張りすぎない」思春期子どもを持つママの悩みを養老孟子先生が解決 「揺れる子育ての壁」の乗り越え方

著書「きみがきみであるために」で、思春期の子ども達からの55の質問に答え、
「もっと自由でいい! もっと自分らしく!」とエールを送った養老孟子さん。
88歳の今、大好きな虫を追い続け、今なお飽きることなく夢を追い続ける養老先生に、
今度は、思春期ママたちからの質問をぶつけてみました!

★ 「まずは、“その子らしく”の一歩、「自分のものさしの日」を作ってみてはどうだろうか」
★ 「ママも、子どもも頑張りすぎじゃありませんか? ものごとは、さじ加減が大事です」
★ 「AIができちゃう仕事なんて面白くない。AIがマネできない「五感」を使う仕事を」
★ 「ママも子どもも忙しすぎる。余裕をもって見てごらん、“好き”がだんだん見えてくる」
ママ’s Question1 中学1年生になる娘は、SNSを見ては「友達があれ買ったらしいよ」「この子の持っているバッグ可愛い。私も欲しい!」とスマホに釘づけです。そんな暇があれば、勉強して欲しいのですが……。

養老's Answer

「まずは、“その子らしく”の一歩、「自分のものさしの日」を作ってみてはどうだろうか」

養老先生のとっておきの場所、昆虫ハウス。棚には、これまで採集してきた標本がファイリングされて並ぶ。

そもそも、僕は人と比べるなんていう感覚がわかりません。
今の子は、友達、先生、親、社会……と人の顔色を気にする子が多い。
子ども達の悩みを聞いていると、だいたい“人の目”を気にしたものです。
そもそも、判断の基準=“ものさし”を人に預けてしまうことが、すべての不幸の始まりです。
そうはいっても、SNSが普及する今の時代は、人の目を気にしてしまうのも、
しょうがないよね。

でも、子どもの頃からそんなことに時間を使うもんじゃありません。
スマホは問題だよね。
日本だとピンとこないかもしれないけれど、オーストラリアなんて非常に自然が多いところでは、
そこで生きていくのに、スマホなんてものにたくさんの時間を費やして、
「子どもたちは大丈夫なのか?」と、皆大人が心配した。
それで、16歳未満の主要SNS利用を国レベルで一律に禁止する法律が出来たんだよね。
大人がピンと来ていないと、こんな法律なんて出来ないですよ。

日本の報道を見てると、「こんな法律ができました」とニュースにはするけれど、
「なぜか」とは追及しない。
子どもが文句を言う、言わないどころの騒ぎじゃなくて、
「そんなものを見ていたら、生きていけないよ」ということが、
オーストラリアの大人たちはわかっているんです。
人間の数より、羊と牛の数のほうが多い国オーストラリアでは、
子どもの頃からちゃんと自然と対面することをしないと、将来生きてはいけなくなる。
そんな国民の一致があるから、あんな法律の施行が可能なんです。

昆虫ハウスの庭にある、南伸坊さんが描いた「バカの壁」の前にて。

子どもがスマホやSNSに没頭してしまう一つの要因は、生活が単調なんでしょうね。
冗談なんかじゃなく、皆さんもオーストラリアに行ったらどうかな。
自然の中では、単調なんていう言葉がほど遠いほど、虫や動物、風景……、
予想だにしない出会いがある。

そして、オーストラリアに行かずとも出来る一歩として、まずは子どもが人の顔色を窺わず、
その子らしくいられる日、「自分ものさしの日」を決めてはどうだろうか。
人に判断をゆだねず、自分で決めてやってみる。
何でもやってみれば、いいんです。
僕も高校時代は、「たまには運動しなくちゃ」と、ひと時サッカー部でサッカーに
挑戦してみましたけどね。
才能ゼロということがわかりましたよ。
そうやって、自分の得意、不得意も知るんです。

ママ’s Question 2 我が家の小6男子は、中学受験を目指して小学校4年生の時から塾に通い、目標に向かって頑張ってきましたが、夏の天王山、いっこうにやる気を感じられずエンジンがかからないようで、成績も停滞気味です。あと半年、どのように目標に向かわせればよいでしょうか?

養老's Answer

「ママも、子どもも頑張りすぎじゃありませんか? ものごとは、さじ加減が大事です」

「年々、馬も鹿も絵のラインが薄くなってきています」と、養老先生。

僕は、仕事も虫とりも、出来る時にはやるけれど、できない時にはやらない。
ものごとは、緩急自在じゃないとね。
頑張ってばかりいては、体がもたないでしょう。

受験もそうですよ。
楽に子どもが持つ範囲ならいいけれど、それを越えるから大変なんじゃないですか?
鼻歌まじりに出来る程度にしておけってことです。
中学受験でもなんでも、まるっきりやりたくなくなるぐらい親が強制するから、
子どもが壁にぶつかっちゃうんです。
適当にして手前で終えなくちゃいけないのに、ギリギリまでやっちゃうんだよね。
みんな、さじ加減がわからないんですよ。
ものごとは、やめること考えてやらなくちゃいけないんです。
受験勉強は、「試験まで」と終わりが見えているはずなのに、
成績が良くて目標がクリアできると「さらに」となっていく。
そういうのは、やめたほうがいいですよ。
たまには、「私の子だから、そこまで利口じゃないからこのくらいで」なんて親は
いないのかな。

「実は、馬も鹿も、壁の裏側まで描かれているんですよ」

最近、講演に呼ばれて感じるのは、会場で話を聞くお爺さん達が不機嫌。
1時間の講演をとおして、クスリとも笑わない。
それで、大学の理事長を歴任する内田樹さんに「どうしてですかね?」と聞いたんですよ。
そうしたら、「日本は、辛抱すればいいことがある、我慢すればいいことがある、
そう教育してきたからあの年になっても、
いいことなかったな、聞いてたのと違うな、って思っているんだ」と(笑)。

日本はまだ、頑張りすぎるカルチャーが消えない 。
私はもう、頑張るのをやめますよ。
ここまで生きて、頑張ってもしょうがないとわかりましたから。
皆さんもやめてくださいね。
何でも、頑張りすぎないことです。

ママ’s Question3 養老先生は、今年の3月“AI養老”と共に東京工科大学の客員教授になられたそうですが、
息子は、「勉強を頑張っても、将来はAIに仕事がとられてしまうから」と言います。
いっそうAIが身近になった今、養老先生はAIに関しどのように感じていますか?

養老's Answer

「AIができちゃう仕事なんて面白くない。AIがマネできない「五感」を使う仕事を」

今のところ、まだAIは便利じゃないですね。
この間、韓国で虫の本を買ってきたのですが、韓国語が読めないから試しにGoogleレンズで
翻訳させてみたのですが、やっぱり全然ダメですね。
こちらが、直さないと何を言っているのだかわからない。
今じゃデータセンターが足りないから、「やれ、作らなくちゃ!」ということになっているけれど、その場所もない。無限に必要になって、無限に大きくしなくちゃならなくなりますよ。

そして、AIは、そもそも身体がないから、「五感」といったものがありません。
僕の考え方はマネできても、感じ方まではマネできないんですよ。
難しく言うと、質量のある世界と質量のない世界なんです。
情報は質量がありませんから、質量がある世界との間でいったん切らなくちゃいけないのですが、
その移行が大変で難しい。
質量があるものは、その現物に名前を付けて一つ一つどんなものか知識を得ていくという
作業になるのですが、そうやって段階を踏んでいるから間違えたら、そこに戻ってもう一度
考えられるんですね。
一方でAIは、言っていることが本当か嘘かもわからないし、間違った場合もあと戻りできない。
そう、融通がきかないんです。

僕は、虫を採ることに関しては、一切AIは使っていません。
自然の中で偶然出会う喜びみたいなものがなくなって、全て一般化されてしまう。
AIは、全てこの次はこうといった確率でしかない。
まあ、ものを整理するのには、非常にAIは便利ですけれどね。

「将来、AIに仕事をとられちゃうんじゃないですか?」というお子さんへの答えは、
これからは、「AIにとられてしまうような仕事はしないこと」です。
絶対面白くないでしょ、そんな仕事。
AIが出来るような仕事は、面白くないですよ。

不登校の子も学校に行きたくないなら、畑仕事を手伝うとか、米を収穫するとか、
カラダを動かせばいい。
それはAIにではできないし、学びも大きい。
今は、大人が本気で子どものことを考えていない。
僕の知り合いがね、不登校の子を預かって農作業をやらせているんですよ。
そうしたら、周りが「“児童労働”にあたるからダメだ」と言うんです。
タダで働かせることになるから、「“児童労働”にあたる」と。
労働することで“救われる”という考えはないんですね。
しかも、カラダを使って働くのは、高級なことじゃないと思いこんでいる。
だって、僕がこの年に至るまで、どんどん第一産業の地位が下がってきている。
そんな価値観だから、第一次産業に入る人はどんどん減っているにもかかわらず、
「エッセンシャルワーカー」なんて読んで、意味わからないよ。
全然、「エッセンシャル」扱いじゃない。
そんなことじゃ、AIに仕事をとられるのも当たり前だよ。

自然の中で生きていると、ひとりでに学ぶことがあるんです。
僕は多分、ずっと虫をとっていて、学習していたんだと思います。
危ないめにもいっぱい遭っているしね。
だから、運が大事だってことも、よくわかっています。
あらかじめ考えて答え出そうとしない方がいいですよ。
その場その場でどこまで判断できるかっていうことを訓練するほうがいい。
自然は、いうことなんか聞いてなんかくれないから、その場で対処するしかないんです。
その場で考えられる能力。
大人も子どもも、その能力が足りないから、「壁」の前でフリーズしてしまう。
大人がそういう世界を作っちゃったんですよ。

ママ’s Question4 「好きなものを見つけなさい」「夢はないの?」なんて、中学生の子どもに言っていると、
子どもから「じゃあ、お母さんの夢は?」そう聞かれて言葉に詰まってしまいました。
先生は、「88歳で体が思うように動かない今も、夢が膨らむばかり」と言います。
子どもは、母である私、大人の写し鏡なのかもしれません……。

養老's Answer

「ママも子どもも忙しすぎる。余裕をもって見てごらん、“好き”がだんだん見えてくる」

今、本当に困っているんですよ。
虫を観察しようにも、目が見えないんですね。
白内障の手術もしたんだけれど、年を取るにつけ乱視がひどくなって、
視力が落ちてしまったんです。
しかも、昔から右目が弱いので、左目でものを見ていたんですが、
右目がさらに見えなくなってきて、遠近感がつかめずに本当に不自由ですね。
野球なんて、全くできないですよ。
ボールの位置が、わからないんだから。
一つの機能が弱くなると、全体がダメになってくる。
人は「五感」が大事ですが、その「五感」が効かなくなってくるのが、年寄り。
脳への入力が半分以下になっちゃった。
ものを見ていても見えているようで、細かい点が見えてない。シャープじゃないんですよ。

それでも、僕は好きな虫を追いかけたい。
虫のことをもっと、知りたい。
だから、最近は虫とりに行くとき、自分の目となる若い人を連れて行くんですね。
人を気にせず生きてきた僕ですが、今は若い人がいてくれると、本当に助かるんです。
まだ顕微鏡は使えるんで、若い人がとってくれた虫を、僕は顕微鏡で覗いてます。
今日も朝からずっと見ていましたよ。
顕微鏡を観る時、指を曲げて支点にして見るのですが、今、薬指を曲げると痛い。
それで、曲げないように、絆創膏で固定して顕微鏡を覗いています。

採集した虫を一つ一つ洗い、標本に。標本に添えられた小さな文字も養老先生の手書き。

虫は飽きません。
僕が一生かけても追えないくらいに種類がありますし、世界各国に存在して
自然環境が変われば虫も変わり、卵から親までいろんなステージがある。
僕が、どれだけ生きても足りません。
今でも発見がありますよ。
朝からずーっと見ていますが、面白くてしょうがない。
皆さんは、見ていないだけですよ。

子どもがイキイキとするためには、お母さんが余裕をもってイキイキしないとダメですね。
子どもに、お母さんの気分がうつりますからね。
大人も子どもも、今は忙しすぎます。
お母さんもちゃんと休みをとって、子どもと一緒に出かけてみてください。
余裕があれば、ちゃんと考えることができます。きっと、「好き」も見つかります。
僕は、子どもが「死ぬ」なんて社会はイヤなんです。
このままでは、まずいよ。
大人がちゃんと考えて、子どもがイキイキとした社会を作りたいですね。

養老孟司 1937年、神奈川県鎌倉生まれ。医学者、解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。京都国際漫画ミュージアム初代館長。2023年に出版された新潮新書『バカの壁』が大ヒット、460万部越えのベストセラーとなる。『養老先生、病院へ行く』『かけがえのないもの』『まるありがとう』他、著書多数。趣味は昆虫採集。

「きみがきみであるために
不自由の壁をぶち壊せ!」

著:養老孟司
ナビゲーター:﨑野隆一郎
10歳~15歳の思春期の子ども達が、今抱える“55の壁”への質問を、養老先生が軽妙に答
えた本。養老先生の答えに、大人も考える“ものさし”について考えさせられる。
¥1,980(光文社) https://amzn.asia/d/00dsPCEq

撮影/沼尾翔平 取材・構成/河合由樹

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