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これぞ「小説」の醍醐味!心が震わされ癒され、 最初から読み直したくなる 【大久保佳代子書評】

フィクションとノンフィクションの
見事な融合

帯には〝大学院に通う青年と80代の元女優の恋〟というような煽り文句が書いてあり、「どんな風変わりなラブストーリーなんだろう?」と下世話な好奇心で手に取ったものの全く違いました。人間同士の絆やつながりの大事さをシンプルに感じ、優しく温かい気持ちにさせてくれる一冊でした。

吉田修一さんの作品は『さよなら渓谷』や『悪人』など、ややダークで救いようのない読後感のミステリーが好きでよく読んでいましたが、真逆とも言えるこの作品も軽やかで叙情的で一気に読んでしまいました

物語は昭和の大女優、肉体派アプレ女優と言われた和楽京子(本名・石田鈴)と彼女の元に荷物整理のバイトに通う大学院生・岡田一心の交流が昭和の絢爛たる映画史、過去と現在が交差する鈴さんの半生の中、静かなトーンで描かれます。

一心と鈴さんが長崎出身であることや、鈴さんと彼女の親友が被爆者であることもストーリーの軸のひとつに。一心が身内を失った時には言葉にできなかった感情が、親友を亡くした鈴さんの気持ちとシンクロしたシーンはグッとくるものがありました。

鈴さんが折々にさりげなく発する言葉、「食べることは生きること、生きることは食べること」「人の心って大人になってもよちよち歩きなの。ゆっくりとしか歩けないのよ」など、胸に響き安心させてくれます。酸いも甘いも嚙み分けた鈴さんの言葉だから説得力があるのです。

また一心とその恋人、元カレを忘れられない桃ちゃんとのリアルな若者の恋模様が、昭和の銀幕スターの壮大な人生とは対極的で良いアクセントになっています。

それにしても、和楽京子という女優は作者の創造物のはずなのに、実際の映画史の中にうまく織り交ぜられていて、本当に戦後アメリカでアカデミー主演女優賞の候補になったのではと勘違いしそうになるほど何が本当かわからなくなってきます。

ラストで、一心と鈴さんのラブシーン(?)があるのですが、年齢差からくるお互いの複雑すぎる心境がもどかしくも哀しくもあり、でもこれが現実なんだろうと胸にグッときます

この時、一心は鈴さんに対し女性として魅かれていたのか? それとも華やかな女優だけど濃やかで優しくて大切な親友と共に生きぬいた生き様に魅かれていたのか? 生き様8割、女性2割が妥当かなと勝手に想像してみたり。

現在50歳の私は、鈴さんの年齢まであと30年以上あります。銀幕の大女優という経験はできないものの、庭の梅の木を大事にし、近所の工事現場の警備員さんと軽やかに交流を持つことができるような女性になっていたいなと思いました。

『ミス・サンシャイン』吉田修一 文藝春秋社 ¥1,760 僕が恋したのは、美しい80代の女性でした…。大学院生の岡田一心は、伝説の映画女優「和楽京子」こと鈴さんの家に通い、荷物整理のアルバイトをするようになる。あたかも女優が現実に生きていたかのようなフィクションとノンフィクションの融合に誰もが和楽京子に恋をしてしまう物語。
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おおくぼかよこ/’71年、愛知県生まれ。千葉大学文学部文学科卒。’92年、幼なじみの光浦靖子と大学のお笑いサークルでコンビ「オアシズ」を結成。現在は「ゴゴスマ」(TBS系)をはじめ、数多くのバラエティ番組、情報番組などで活躍中。女性の本音や赤裸々トークで、女性たちから絶大な支持を得ている。

撮影/田頭拓人 取材/柏崎恵理 ※情報は2022年4月号掲載時のものです。

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