高齢化に伴って介護を必要とする人の数は急速に増え、家族介護者数は、2001年の470万人から、2016年には 699万人に増加しています。そこで、介護にあたるうえでの心構えや、上手に負担を軽減する方法を体験者の方に語っていただきました。
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「近くに介護をしている人がいたら、一言かけたり、話を聞くだけでも救われます」
安藤朋恵さん(54歳・東京都在住) 会社員
紙切れ一枚で彼の人生を
左右していいのか。
離婚届まで書いたことが
自分を変えるきっかけでした
左右していいのか。
離婚届まで書いたことが
自分を変えるきっかけでした
11年前に個人タクシー運転手のご主人と再婚をした安藤朋恵さん。「これからは二人だけで好きなスキーや旅をしよう。そんな楽しい未来を頭に描いていました」。けれども5年程前から、何度も平地で躓くなど、ご主人に気になる症状が見られたそう。
「2年前に義父が危篤になり、先に夫が駆け付けたところ、突然義母から『息子がトイレの場所がわからないし、着替えもできない、何が起きたの?』と言われました。何か大変なことが起きそうな嫌な予感がしました」。すぐに“若年性認知症”と診断。そのまま廃業を余儀なくされました。
「夫婦で病気に向き合えず、この時期の二人の関係は険悪。病気のせいだと理解しているのに、食べこぼす夫を叱り、『病気に負けちゃいけない』とケンカばかり。病気に対する戸惑い、今後の生活や経済的な不安に押し潰されそうで、夫だけに当たっていたんです。将来を描いていた理想から遠のき、周囲には『再婚だし、今なら決断しても』と言う声もありました。『このままだと自分が壊れる』と、実は離婚届も書いてもらったんです。彼は自分の将来がどうなるかわからずサインしてくれた。けれども今度は彼の人生を私がこの紙切れで左右できてしまうことに恐ろしくなってきたんです」。
同時にマイナス思考ばかりの自分からも抜け出す方法を模索していたそう。『怖いならどうすればいいのだろうか』と意識が変わってきたと言います。それからは各機関に足を運び、必死に情報を集め始めた朋恵さん。
「生きるために前向きになると知識がつき力になった。障害年金の請求は難しいのですが、“勝ち取る”くらいの気持ちになっていましたね(笑)」。
徘徊や大声を出すことは病気が起こす行動ですが、環境が整えば起きにくいそう。「介護って行き着く先はお互いの気持ちなんです。自分のためにも介護がスムーズになればいい。その環境作りにも信頼関係は大事です」。
そして“してあげるばかりでなく、できることを残していく心がけ”が認知症の介護には大切だと言います。
「できる喜びが生きる喜び。そう思っているので過剰介護はしません。私の背中は夫が洗う係になっていて、構えて準備してくれています(笑)。『気持ちよかったよ』と声をかけるとうれしそう。楽しい時は二人で大笑いしながらも、夫がそのあと涙を流すこともあるんです。もう今は気持ちを聞くことができないから。『彼ならこうしたいかな?』と考えながら、自尊心を傷つけないようサポートしています。認知症は進行性のため、常に今が一番良い状態。安心できる人として寄り添い、居心地よい空間を作っていきたいです」。
撮影/BOCO 取材/孫 理奈 ※情報は2022年10月号掲載時のものです。