親の介護が始まったら、自分の生活はどうなるのか、漠然とした不安を抱えている方、多いですよね? そこで、今まさに介護中のみなさんに、お話を伺いました。耳を傾けるうちに、介護は大変だけれど、発見や学び、笑いや楽しさがぎっしり詰まった、家族との濃密な時間なのかもしれない、と思えてきたのです。
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ずっと仲良し親子で、一人暮らしを始めた20代のころから、毎朝7時に、必ず両親に電話をかけているというかたせさん。同い年のご両親は80歳を迎えると、階段のある一軒家での暮らしが大変になってきました。そこで、かたせさんの自宅近くのバリアフリーのマンションに引っ越してきてからは、元気に暮らしていたそうです。
「母は本当に強い人。腕を骨折したときも、私の仕事の邪魔になるからと、ひとことも言わなかったんですよ」。
ところが、89歳のとき、お父様が倒れ、突然入院することに。「お医者様はもう老衰だとおっしゃって。その時点で、要介護5でした。今の制度では、病院に長くは入院できないので、病院併設の特別養護老人ホームを探して転院したんです」。
お父様は、食通でしたが流動食しか食べられなかったので、かたせさんは「舌でつぶせるおせち料理やケーキを探して持っていきました。父は喜んでよく食べてくれて。すると、次第に元気を取り戻し、歩けるようになって、車いすがいらないほどに回復したんです。諦めなくてよかった」。
ただ、自宅での生活は難しい状況。「夫婦一緒に過ごせるほうがいいと思い、2人で入れるホームを探して、何カ所も見学に行き、ようやくいいところを見つけて決めました。ひとりっ子なので、どこかで、私が決断しないとならなかった。ところが、母は、ホームには行かない、自宅にいると言って聞かないんです。最後には、入院中の父に来てもらって、一緒にホームに入ろうと説得してもらい、ようやく引っ越しました」。
お母様もお父様があとから入居してくるとやっと納得してくれました。「一人部屋でしたが、隣の部屋に移動させてもらえたので、昼間は一緒に過ごせましたし、夜はしっかり休めてよかったようです。父は、本人の努力のかいあって、要介護1にまで回復しました。そして、90歳のころには、週に1回は3人で外食を楽しめるようになりました」。
今も、毎朝の電話は欠かさず、週3回はホームに通って、介護のプロからいろいろなことを学んでいるというかたせさん。入居時はごねたお母様も、今は喜んでくれています。
「ホームに入ることは、ゴールではなくむしろスタート。だから相談されると、余力があるうちに入るといいとアドバイスしています。90歳からの新しい人生なんて、私自身、考えたこともなかった。けれど、できるんです。それももっと長生きするためのスタートを切れる。もちろん、自分だけでやろうとしては無理ですが、プロの力やいろんな人の経験やアイデアを借りることで、新しい人生を歩きだせる。それは、親子お互いにとって幸せなことじゃないかなって思うんです」。
「両親のマンションに泊まり、朝夕の窓の外の景色を見ていると、私の知らない両親の時間があったのだなとしみじみ感じます」。
撮影/平井敬冶 ヘア・メーク/山岸直樹〈Rouxda.〉衣装協力/YUKI TORII 取材/秋元恵美 ※情報は2024年12月号掲載時のものです。