高い技術に裏打ちされた繊細かつダイナミックな表現と、麗しく端正な容姿、そして明るくフレンドリーな人柄で、来日のたびにファンを増やし、魅了している米国人ダンサーがいます。バイエルン国立バレエのプリンシパルとして活躍し、世界各地のバレエ団への客演はもとより、ファッション界等からも熱い注目を集める“バレエ界の貴公子”、ジュリアン・マッケイさんです。今年2月には、写真家の実弟ニコラスさんと作った会社で企画から立ち上げたプロデュース公演、ジュリアン・マッケイ&フレンズ バレエ・ガラ『アート・オブ・ダンス』を東京で初開催し、公式ファンクラブも設立しました。世界を飛び回る人気ダンサーの日本へ寄せる思いをお届けします。
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――今年2月にBunkamuraオーチャードホールで2日間開催された『アート・オブ・ダンス』、大成功でしたね。ダンスと日本の伝統芸能や映像、チェロの生演奏などを融合した、多彩で素晴らしいプログラムでした。
ありがとうございます。新しい形のステージを日本の皆さんと分かち合えて、本当に嬉しいです。実現を夢見て、いろいろなことを考え、思い描き、努力してきましたが、思っていた以上に素晴らしいものになったと思います。もちろん、いつも完璧なものにしたいと思ってやってはいますが、特に初めての試みとなると、実際にやってみるまで何が完璧なのかわからないものですよね。でも今回ばかりは本当に、思い描いていた全ての要素が想像していた以上にピタリとハマって、僕自身も圧倒されました。
――パリ・オペラ座バレエのエトワール、レオノール・ボラックさんを筆頭に、バイエルン国立バレエの若手実力派らが結集した出演陣も、実に魅力的でした。キャスティングもご自身でなさって、大忙しだったのでは?
そうですね。確かに、やることが多くて大忙しでした。でも、この公演に自分の時間と集中力を注ぎ込めたことをとても誇りに思っていますし、自分が大事にしているものが何であるか、すごくわかった気がします。結局のところ大切なのは、自分が情熱を注げるものにどれだけ長く集中できるかだと思うから。その結果、何かこう、普段以上の超人的な力が出せたのかなと思います。
――初日のオープニングを飾ったのは、ジュリアンさんと能楽囃子ユニット「ナニワノオト」の共演による『型(Kata)』。息もぴったり合っていましたね。
同世代の日本の伝統芸能の皆さんとの共演は、以前からやりたいと思っていたことでした。能楽師を演じて見せるとか、「こういうものに影響を受けてます」といった体で、それ風のことをやるのではなく、インスピレーションをもらい、心からの敬意を持ってコラボレーションすることができて、本当に嬉しく思っています。
――劇場のこけら落としで上演されることが多い『三番叟』を思い出しました。ガラ公演の開催を祝し、劇場に良い気を呼び込んだように思います。
振付の大西裕香さんも、最初の“ウォーク・アラウンド”というパートの動きを説明する時に、「こうすることで、空間を浄化し、エネルギーを呼び込んで、それを巡らせることができるのよ」と言っていました。興味深いのは、本番の舞台でそのパートから斜めのステップに移った時、僕の頭には、今やっているパフォーマンスのことだけじゃなく、自分の人生、友人たちやチーム、バレエ界全体のことまで浮かんできたんです。そして、方向転換する最初のポイントで、エネルギーを周りに押し出すように手を広げて大きく回した時、冷たい風を感じました。劇場の中なので、実際に風が吹くわけはないんですが、「ああ、始まったんだな」と、すべての夢が一つになった瞬間を自分の中で感じました。
――能面作家・堀越比菜子さんの面をつけて舞った印象はいかがでしたか?
とても面白い体験でした。目の穴がとても小さくて、そこにあるものが遠くにあるように見えるんです。はるか遠くで起こっている出来事を、ピンホールから覗いているような、まるで映画を観ているような感じで、「弟のニコラス(写真家)は、カメラの小さなファインダーから覗いている時、いつもこんな感じなのかな」と思いました。僕とニコラスのチームは、パフォーマンスを撮影・配信することで、“カメラの小さなレンズを通して、いかに多くの人たちに自分たちの作品を見てもらうか”ということをやっているんですが、そういう時の“800人の前でパフォーマンスしながら、8万人に観てもらっている”不思議な感覚も思い出しました。自分がそんな視点を持ったのは初めてのことだったので、本当にいい経験になりました。
――世界初演されたジュリアンさんのソロ作品『Avalanche(アヴァランチ=雪崩)』にも魅せられました。まさに圧巻のパフォーマンスでした。
いつも僕のそばにいて、最高の瞬間もどん底の瞬間も全て見てきた弟のニコラスが、ダンサーとしての自分以外も含めた、ありのままの自分、つまり“ジュリアン・マッケイとは何者なのか”を表現する作品を作れないかと、提案してくれたんです。それにふさわしい音楽を探す中で出合ったのが、レナード・コーエン(カナダの詩人でシンガーソングライター)の『アヴァランチ』でした。歌詞にすごく共感を覚えて、高い頂に到達しようと日々研鑽し葛藤するバレエダンサーの、時に嵐に立ち向かい、雪崩に遭ったりするような内面世界が頭に浮かんだんです。ニコラスがレナード・コーエンの遺族の方と交渉して、約1年掛かりで「バレエに使うのなら」と楽曲の使用許可をもらいました。
――振付はエドワード・クルグさんでしたね。
コンセプトを理解して一緒に作ってくれる人を考えた時に、真っ先に浮かんだのが、彼がボリショイ・バレエに振り付けた『ペトルーシュカ』を初めて観た時にすごく感銘を受けたエドワードでした。彼は、シェイクスピアの『ロミオ&ジュリエット』をロックバンドのレディオヘッドの楽曲で再構築した『レディオ&ジュリエット』という作品でも有名で、とても多忙な人なんですが、オフィシャルなルートで打診しても全く返事がないので、パーソナルな方法で連絡を取ったら、すぐに「やりましょう」と返事をくれて。それで早速、ちょうどミュンヘンにいた彼にニコラスと2人で会いに行ったら、詳しい説明なしでコンセプトを理解してくれて、「5日間だけ時間がある」と言ってくれたんです。
――あの作品を5日で創作したのですか!?
僕も正直、彼に5日と言われた時は「そんなに短期間で!?」と思ったんですが、やってみると十分な時間でした。というのも、毎日7~8時間ぶっ通しで作業したんです。あんなに集中した質の高い時間を経験したのは初めてです。僕は最初から思いっきりやってしまう方なので、稽古の初日からフルパワーで臨んだんですが、エドワードには「ゆっくり熟成させて一つの作品に育てていけばいいんだよ」と言われました。「様々な要素を箱のようにしっかりと組み立て、発展させていく中で、削ぎ落とすものもある。そして時が来たら、解き放つんだ」と。その結果、東京に小さなアヴァランチを持ち込むこともできました(笑)。
――確かに、『アヴァランチ』の世界初演を祝福するように、公演初日の夜から雪が降り始め、2日目の朝の東京の街は真っ白でしたね。公演初日には、5歳からクラシックバレエを習い、今は主にミュージカルで活躍している三浦宏規さんがゲスト出演。ジュリアンさんのために創られたソロ作品『Cuban Nutcracker(キューバのくるみ割り人形)』を踊りました。
『キューバのくるみ割り人形』は、僕がまだボリショイ・バレエ・アカデミーにいた14歳か15歳の時に、アリシェル・カサノフ先生が振り付けてくれたソロ作品です。当時はオリジナル作品の創り方も、舞台でどう表現すればいいのかもわかっていなかったので、「ただ笑顔で楽しもう」という気持ちで踊っていました。女の子の前では、ちょっとぎこちなくなったり、カッコよく見せようと必死になったりする……そんな年頃にぴったりの作品で、世界各地で踊って多くの人に愛されたことは、僕のキャリアの基盤となりました。それだけに、プロになって10年経った今回、次の大きなステップとなる『アヴァランチ』を創るにあたって、そろそろ『キューバのくるみ割り人形』を次の世代に引き継ぐべき時かもしれないと考えたんです。宏規に踊ってもらって、それを実感しました。
――2019年にミハイロフスキー劇場バレエの来日公演で日本デビューして以来、Kバレエ トウキョウ公演への客演や、奉納コンサート「OTOBUTAI」への出演で来日を重ねてきたジュリアンさん。今ハマっている日本の食べ物を教えてください。
コンビニで買い物をするのが大好きで、このところミルクティーにハマっています。チョコレートもよく買いますね。特に気に入っているのは、いろんな味のチョコレートが入っているもので、パフが入っているチョコや、抹茶味のチョコも好きです。節制は特にしていません。ただ、できるだけタンパク質が摂れるものを、ちゃんと食べようとは思っています。日本に来ると、お寿司でマグロといったタンパク質豊富な魚を食べられて嬉しいです。
※インタビュー後編へ続きます
ジュリアン・マッケイ ファンクラブ
https://fan.pia.jp/julianmackayfc/
https://www.mackayproductions.com/
●クレジット
取材・文/岡﨑 香 スタイリスト/押見陽子 メーク/石田弥仙 撮影/Nicholas MacKay(MacKay Productions)
協力/ホテルニューオータニ(東京) 山川徳久事務所
















