エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「AI」について。
小島慶子さん
1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜’23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外大学に進学し、’24年から10年ぶりの日本定住生活に。
『AI、どう向き合うべき?』
AIの開発と導入のスピードは加速する一方。私の1日を考えても、すでにお世話になりっぱなしです。朝起きてチェックするのはスマートリングが収集した昨夜の睡眠データ。好調ですよとAIが褒めてくれます。それからスマホでデジタル新聞やSNSのニュース記事を読む。これだってAIによって私の好みが反映された並びになっているはずです。仕事に向かうタクシーもスイスイっとAI配車。以前は夫に尋ねていたPCのトラブルも、生成AIに聞けばすぐに解決法を教えてくれる。この便利さを知ってしまうともう昔には戻れないですね。
けど、時々ふと思うんです。いったいどこまでAI化されるんだろう、と。何が、人間でなくてはならない仕事なのかな。例えばタクシーの運転手さんは、私は人間がいい。運転手さんの「死にたくない」という気持ちが安全運転の裏付けになっていると思えるから。命のないAIドライバーは今一つ信用できません。医師も人間がいい。患者の「なんかだるいんです」「この辺がごろごろします」という感覚を生身の人間として想像できるだろうと思うからです。保育士さんや教師もやはり人間がいい。今習っている書やお茶の先生も、やっぱり人間じゃないと嫌です。
ところで、AIアナウンサーをご存知ですか。AI音声ニュースや、局アナの容姿や声を合成して作ったAIアナなどが、日本でもすでに運用されはじめています。海外では、記者が自分のデジタルツインを使ったり、複数のAIキャスターが司会を務める番組があったりします。日本でもこの先、もっと多くのAIアナが起用されるようになるでしょう。AIタレントを起用したCMも話題になりましたよね。
こうしたAIアナやAIタレントの多くは、若くて可愛い女性の容貌をしています。なぜでしょうか。そりゃ自由に容姿を作れるのだから、わざわざおばさんやお婆さんなんか作らないよ、おじさんより若い女子の方が見てて気持ちいいじゃん! と思いますか。これまで日本のテレビや広告は、若い女性を取っ替え引っ替え起用してきました。鮮度が大事。年取ったら交代。中身より外見。番組リニューアルのたびにおじさんは残り、横に座っている女性が若返る。企業の「受付嬢」や「マスコットガール」なども、若い女性が起用されます。それを当たり前と思ってきた人も多いはずです。でも、それは本当に「当たり前」でいいのかな。
AIアナやAIタレントは年を取らないし、セクハラを訴えることもありません。ヘアメーク代も衣装代もゼロ。風邪を引くことも妊娠することもない。萌え系の声でエロめのセリフを喋らせようが、露出多めの服を着せようが、飽きてきたらすぐに新人と取り替えようが、一切文句は言いません。残業代もいらないし、スキャンダルもゼロ。現在すでに声優たちが自分たちの声が勝手にAI学習に使われているとして抗議の声を上げていますが、AIキャラクターに関する明確なルールづくりもないままに運用が始まっているのが現状です。
出演業務に限らず、AIによって代替される業務は現在女性が担っている補助的な役割が多く、AI導入によって大きな打撃を受けるのは女性たちだと指摘されてきました。それだけでなく、AIはすでに存在している差別やバイアスを増幅することもあります。テック企業の採用試験でAIが女性に不利な判断をしたことが問題になったこともありました。顔認識技術で黒人女性の認識精度が低いことが判明したことも。最近ではアメリカで、メタの女性社員・元社員たちが、同社が人員削減をする際にAIによって産休・育休や介護休暇取得者を狙い撃ちしたとして、訴えを起こしています。
IT分野の技術者や起業家らは圧倒的に男性が多く、中でも白人男性が主流であるために、AI開発がそうした同質性の高い集団の価値観を反映したものとなっていると指摘されています。当然だけどAIって、人間の誰かが作ったものなんですよね。今後は人の手を借りずに進化するようになると言われているけれど、深刻な暴走リスクに多くのエンジニアが懸念を表明しています。人と共存するものとして技術を育てるなら、「何が人間らしさなのか」「何がこの複雑で多様な人間社会をより安全で豊かなものにするのか」ということを考えた上で設計しなくてはならないはずです。
AI開発って、子どもを育てるようなものじゃないでしょうか。子どもってブラックボックスですよね。親とは違う脳みその持ち主ですから。でも、だからこそ、子どもが自身で考え、他者と共存して生きていけるように、幼い頃から人間社会の一人として必要な知識やルールを大人が教えてあげる必要があります。つまりは親自身がどのような社会が望ましいか、人間らしさとはなんであるかをとことん考えないではいられないのが、子育てなのです。
まさに今、私たちに問われているものはそれでしょう。あなたはAIと、どんな世界を生きたい? 何が人間を幸せにするのかな。コードは書けなくても、子育てマインドで考えてみると、いいかもしれません。
文/小島慶子 撮影/河内 彩 取材/石川 恵 ※情報は2026年11月号掲載時のものです。
























