牛肉にトマト、それに玉ねぎと……。
このところ週末はゴルフ続きだったダンナが、
私のご機嫌を伺うように、スーパーへの買い物に付き合ってくれ、
隣で重そうに食材が入るかごを持っている。

「ねぇ、ママ友の仁香さんね、再婚したの。ダンナ様、８歳年下なんだって。ほら、来週末の３連休、子供達サッカーの合宿があるでしょ。だから、『ご夫婦で来て』って、うちにご招待しちゃった。あなた、予定あけといてね！」

「えっ、週末くらいのんびりさせてくれよー」

「いいじゃない、ゴルフに行く日だけはシャキッとしちゃってるくせに（笑）」

５年生になる息子雄太と同じクラスのママ友仁香さんは、モデルのようにスラリと背が高くて華やかだ。気さくな人柄の仁香さんとは気も合って、まだ同じクラスになって半年足らずなのに、最近ではたびたび二人でランチに行くようになった。

「まぁ、いいか。でも、８歳年下なんて話合うのかな？」

「うちだって、あなたのほうが10歳年上じゃない」

「男と女は違うだろ……」

「あなた古いわね。最近のアラフォー女子はモテるのよ。みんな若くてキレイだから、年下男子からだって結構お声がかかるんだから」

「えっ、まさか、麗子も？」

「ないない、私はそんな出会いなんてないから……」

スポーツジムやたまに出かける女友達との夜のお出かけ……、そんな時、年下らしき男性から声をかけられることもある。出会いなんて、どこにでもあるのだ。でも、そんなことをおくびにも出さず、「さぁ」とばかりにレジに並ぶ。8歳年下かぁ……、もちろん家へ招待するのは、仲良しの仁香さんをお祝いしたい気持ちからだけど、その半分は「どんなダンナ様なんだろう……？」という好奇心が半分だ。

「いらっしゃーい」

「今日は、ありがとう。彼、貴史くんです」

「初めまして、麗子です。コレ、ダンナで直樹です」

「散らかってますけど、ゆっくりしてってくださいね」

うーん、カッコイイ。いいな、いいな。若くてピチピチしたダンナ様。仁香さん、最近お肌ツヤツヤで、すっかりキレイになったと思ったら、美容液はコレね！

「カンパーイ！」

まずは、シャンパンでグラスを合わせる。

「お二人の馴れ初めは？　彼がいるとは聞いていけど、仁香さんから詳しく聞いてなかったから」

「僕の会社で仁香のお勤めする化粧品会社のwebコンサルをさせていただくことになって。僕の一目惚れなんですよ。だから、デートに誘ってだんだん仲良くなって……」

「もう、恋なんてしばらくないと思ってたし、息子もいるから最初はずいぶん躊躇したんだけど、直人も彼にすっかりなついちゃって……」

「いいですね、恋かぁ……」

そんなふうに呟いて遠くを見つめる夫に、ちょっぴりイラッとする。

「さあ、せっかく子供達がいない夜だから、今日は大人４人でとことん飲みましょ」

ダンナへのモヤッとした気持ちを抑えるように、彼が大事にしていた30年もののワインの栓を抜く。

「今日は付き合わせちゃってゴメンね」

「いや、全然。仁香の友達と知り合えるのは嬉しいし。麗子さん、明るくて可愛い人だね」

彼が、他の女性を褒めるのはあまりイイ気がしないものだ。そんな気持ちを胸に封じ込めて大人の余裕を見せてみる。

「うん。私より４つ下だから、貴史とも年が近いんじゃないかしら」

「直人君がいないのは寂しいけど、仁香と二人で過ごせるのは嬉しいな」

そう言って、手を繋ぎ彼が片耳にiPhoneのイヤホンをさしてくれる。

「僕の好きな、ワンオクの曲」

ワンオクって……？　そんなジェネレーションギャップにちょっぴりザワつきながらも、彼の手の温もりに甘酸っぱい思いが胸に広がっていく……。