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「ただ厳しく言っても無理」父であり師匠・中村勘九郎さん、成長途中の息子たちへの接し方

江戸庶民を熱狂させた中村座の熱気と興奮を現代に復活させるべく、十八世中村勘三郎さんが2000年に立ち上げた平成中村座が、4年ぶりに浅草に帰ってきます。浅草寺境内の特設劇場で、父の遺志を継ぐ中村勘九郎さんたちが奮闘します。勘九郎さん、その長男・中村勘太郎さん、次男・中村長三郎さんの3人による『連獅子』や、弟の中村七之助さんが揚巻を演じ、勘九郎さんが初役で助六をつとめる『助六曲輪初花桜』など、見どころ満載のプログラムです。平成中村座とご家族への思いを、勘九郎さんに伺いました。

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【INDEX】 ★ 息子たちには、ただ歌舞伎を好きでいてほしい
★ 「勉強しなさい」と余計なことを言ってしまいました
★ 僕の肉体で父の思いをぶつけていきたいです
★ 同世代の方々がリフレッシュできるような空間に

息子たちには、ただ歌舞伎を好きでいてほしい

――浅草寺境内に特設される江戸情緒たっぷりの芝居小屋、平成中村座。第二部は、勘太郎さんが初役で白井権八をつとめる『御存 鈴ヶ森(ごぞんじ すずがもり)』から始まります。白井権八は、勘太郎さんが憧れていた役だそうですね。

僕ら家族は、父が(中村)吉右衛門のおじ様の幡隨長兵衛で権八をつとめた時の話をよくしていましたし、権八は腕の立つ美剣士という役柄で立ち廻りがありますからね。七之助が(七代目)菊五郎のおじ様、そして父からも教わって権八をやっているので、七之助に習うのがいいんじゃないかと思っています。勘太郎には、とにかく権八という人間を素直にやって欲しいなと思います。何か特別なことをしなくても、あの小屋(平成中村座)がバックアップしてくれるだろうし、鶸色(ひわいろ:黄色味の強い明るい黄緑色)の着物に赤い脚絆という、なかなかない色彩感覚の衣裳も、きっと少年の美しさとちょっとサイコパスな雰囲気を醸し出してくれるのではと思います。

――そういったお芝居の話は普段からなさっているのですか? それともお稽古の時に限ってですか?

うちは普段から全然しゃべってますよ。もちろん、稽古は稽古でしっかりやっていますし、頭の切り替えは必要ですけれども、普段の生活と稽古をあまりにきっちり分けて激しく切り替えてしまったら、子どもが混乱すると思うんです。子どもたちの負担を減らすためにも、そういうことは極力しないようにしています。

――確かに、優しく楽しいお父さんが稽古が始まった途端に別人のように厳しくなったら、子どもは戸惑いそうです。

ストレスになりますよね、きっと。舞台に立つからには、もちろん、そのレベルまで稽古でやり込まないといけない。でも、まだ成長途中の彼らに、ただ厳しく「やりなさいよ」と言ったところで無理じゃないですか。それにはやっぱり手助けが必要だし、時間を割かなければいけない。それが親のつとめだと思っています。

――勘太郎さんと長三郎さんには、どんなふうに成長していって欲しいですか?

こうなって欲しいというのは、特にないです。ただ、とにかく歌舞伎を好きでいて欲しいですね。たぶんふたりはこれから、僕や七之助が経験してきたように、まだ出合ったことのないようなプレッシャーや難しさにぶつかっていくと思います。僕たちがそれを乗り越えられたのは、父のお陰ですけれども、やっぱり自分の根本に“歌舞伎が好き”という気持ちがなかったら難しかったと思います。好きだからこそ、憧れだったり、楽しさや悔しさだったりが湧いてきて、それが探求心に繋がっていくんじゃないですかね。

「勉強しなさい」と余計なことを言ってしまいました

――お子さんたちの成長を実感なさった最近のエピソードがありましたら、教えてください。

今年中学生になった長三郎が、夏休み前に初めて期末試験を経験したんですけれども、試験前に全然勉強をしていなくて。それで、普段あまり言わない僕が「ちゃんと勉強しないとマズいよ」と言ったら、「学校で勉強して、その後、教科書を見て復習しているから、今やらなくても大丈夫」なんてことを言うんです。だから「いやいや、中学の学期末試験はそういうもんじゃない。ちゃんと勉強しないと」と言ったんですけれども、結局やらなくて、「もったいない。せっかく中間試験は点数がよかったのに」と話していたんです。で、試験が終わって通知表を持って帰ってきたら、とても好成績で!

――素晴らしいです。

余計なことを言って本当に申し訳なかったなと思って、長三郎に「すみませんでした」って謝りました(笑)。こういうタイプは波野家(勘九郎さんの本名)にはいなかったので、驚きましたよ。完全に妻の(前田)愛のほうに似たんだと思います。まさか、そんな通知表を見る日が来るなんて。次男の成長を感じましたね。

で、そのとんでもない通知表を持って帰ってきた弟に対して焦りを覚えたお兄ちゃんは、普段から勉強するようになりました(笑)。なので、学校のほうは安心できるかなと。平成中村座の公演がある10月はちょうど中間試験があるので、頑張って欲しいなと思っています。

僕の肉体で父の思いをぶつけていきたいです

――素敵な相互作用ですね。今回の平成中村座 第二部を締めくくるのは『助六曲輪初花桜(すけろくくるわのはつざくら)』。勘九郎さんは、源氏の宝刀を探すため、花川戸助六というモテモテの侠客となって吉原に通っている曾我五郎を、初役でつとめます。

華やかで芝居自体も面白く、古風なのに新しく見えるという不思議な感覚に誘ってくれる作品だと思います。助六をつとめる役者のお家によって外題が違うところも面白いなと、子どもの頃から思っていました。ただ、自分がやるとは思ってなかったですね。やってみたいと思い始めたのは、(片岡)仁左衛門のおじ様が父の七回忌追善の時(2018年)に、歌舞伎座で七之助を揚巻に抜擢して助六をやってくださってからです。やっぱりカッコイイなと思いまして。

もう一つ、平成中村座で助六をやることは、父の夢の一つでもあったんです。それで、浅草寺境内で、僕の肉体を通して父の思いをぶつけることができたらいいなと思いまして。たぶん父は悔しがっていると思います(笑)。プレッシャーもありますが、花川戸がある浅草の力も借りながら、つとめたいと思います。

――今回ご指導いただく仁左衛門さんが、ポスター撮影の際にも立ち会われたそうですね。

そうなんです。父が仁左衛門のおじ様に教わって助六をやりたいと言っていたことから、今回は松嶋屋さんの型でやらせていただくんですけれども、祖父(十七世中村勘三郎)は音羽屋の型でつとめていたので、うちにある助六の衣裳と小道具に入っているのは音羽屋の御用菊の紋。それで撮影の際に、松嶋屋さんの御用桜の紋が入った衣裳と刀と印籠と傘を仁左衛門のおじ様が貸してくださって、着方や形も見てくださいました。撮影中も「ええ男の気分で」「あー、いいよ、いいよ」というふうに言ってくださって、やっぱり“助六役者”に褒めていただくと気分が上がりますね(笑)。実は今、自前の小道具を制作中です。改めて、助六をやる時は本当に全部自分の家のものを使うんだな、大変だなとも感じましたけれども、細かい部分や紋の位置なんかを小道具さんと相談しながら作っていく作業は楽しいです。

――助六の恋人である花魁・揚巻は七之助さんがつとめます。

親子で助六と揚巻をつとめることはあっても、兄弟でやるというのは、なかなかない気がしますね。さっき調べてもらったら、少なくとも戦後は一度もないらしいです。七之助は作品の読解力に長けていて、人をまとめたり、引っ張っていく力もすごくあるので頼もしいですし、最近は誇らしく思っています。子どもの頃からお互いに意見を言い合い、もはや言い合わなくても意思疎通ができているふたりで、こうやってまた新しいものを作り上げられることが楽しいし、嬉しいし、父から聞いた「兄弟仲良く」という祖父の遺言は、こういうところに生きてくるんだなと感じています。

同世代の方々がリフレッシュできるような空間に

――STORYのメイン読者層も勘九郎さんと同じ40代。中村屋ファミリーに密着したドキュメンタリー番組の影響もあって、中村屋の皆さんのことを身近に感じていらっしゃる読者も少なくないと思います。最後に読者の皆さんへ、ひと言お願いできますでしょうか。

身近に感じていただけているなら、本当に嬉しいです。子どもが出てくる演劇は限られていると思うんですけれども、歌舞伎の場合は結構あります。同世代の読者の方々に、自分の子どもを見るような気持ちで観ていただけたら、本当にありがたいです。劇場という空間に足を運ぶだけでも、非日常の世界でリフレッシュできると思います。お子さんが中学生、高校生になって、子育ても一段落したら、ご夫婦の久しぶりのデートとして歌舞伎を観るというのもいいんじゃないかなと思います。劇場でお待ちしております!

中村勘九郎さんProfile なかむら・かんくろう/1981年、東京都生まれ。十八世中村勘三郎の長男。86年1月の歌舞伎座『盛綱陣屋』にて波野雅行の名で初お目見得。87年1月の歌舞伎座『門出二人桃太郎』で二代目中村勘太郎を名乗り初舞台。2012年2月新橋演舞場『土蜘』『春興鏡獅子』で六代目中村勘九郎を襲名。2019年のNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』で金栗四三役として主演をつとめるなど、歌舞伎以外の作品でも活躍している。

https://e-nakamuraya.jp/

平成中村座 十月大歌舞伎

第一部(午前11時開演)
一、『初帆上成駒宝船(ほあげていおうたからぶね)』
二、『仮名手本忠臣蔵 九段目 山科閑居(かなでほんちゅうしんぐら くだんめ やましなかんきょ)』
三、『連獅子(れんじし)』
第二部(午後4時開演)
一、『御存 鈴ヶ森(ごぞんじ すずがもり)』
二、『助六曲輪初花桜(すけろくくるわのはつざくら)』

出演/中村勘九郎 中村七之助 中村橋之助 中村福之助 中村歌之助
中村勘太郎 中村長三郎 中村芝翫 中村扇雀 中村鴈治郎 片岡仁左衛門(23~25日第二部のみ)
2026年10月1日~25日/平成中村座(浅草浅草寺境内・仮設劇場)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/play/982/

取材・文/岡﨑 香 ヘアメイク/宮藤誠 中村優希子(Feliz Hair) スタイリスト/木村厚志 撮影/田中駿伍

衣装協力/ジャケット¥114,400 パンツ¥74,800 ともにワイズフォーメン(ヨウジヤマモト プレスルーム) シャツ¥44,000 ネクタイ¥22,000 ともにヨウジヤマモト プールオム(ヨウジヤマモト プレスルーム)
ヨウジヤマモト プレスルーム/電話03-5463-1500

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