２年前、ちょっと奮発して購入したブランドの春パンツ。
女友達とのランチにと引っ張り出して鏡の前に立ち愕然とする――。

「えっ、パツパツ!?　２年前とシルエットが全然違うんですけど……」

30代半ばを過ぎた頃から、太りやすくなったなと感じてはいたけれど
子育ての忙しさにかまけて、徐々にゆるむカラダを見て見ないふりをしてきた結果だ。
とどめは、今日夫が私に視線を止めて思わず口にしたひと言。

「最近、カラダが成長してない!?　　トドにならないようにね（笑）！」

トド!? 冗談じゃない!!
それで、40歳を迎える今年、「なんとかしなくちゃ」とカラダ改革を決意。

「自己流でダイエットするより、筋肉をつけながら痩せたい部分がちゃんと痩せられるから、パーソナルトレーニングに通うのが一番よ」

こんな時、頼りになるのは年上の女友達だ。
ひと回り年が違う姉的存在の裕己子さんは、運動が趣味で50代に入ったのにスラリとスタイルがいい。『STORY』でライターをするだけにかなりの情報通で、まずは彼女が薦めるパーソナルトレーニングジムに通うことにした。

「今日から、よろしくお願いします。これから高垣さんを担当させていただきます、河合です。」

筋肉の付いたがっしりとしたカラダに甘いマスク……、
そのギャップにドキリとする。
わっ、どストライク！　好みなんですけど♥
“ことはじめは、やっぱり形から”と、やる気を後押しするためにトレーニングウエアを
新調して良かった！

「高垣さん、ご自分のカラダの気になる部分ってありますか？」

えっ？　それ聞いちゃう？　あるある、大ありですよ！

「お腹と太腿かしら……」

ホントは、脇肉も背肉だって気になるけれど、イケメンを前にすると、ちょっと申告が控えめになる。

「それじゃあ３か月後、高垣さんが悩みを克服して、もっともっと自身のことを好きになれるよう、僕がお手伝いさせていただきますね。
一緒に頑張りましょう！」

その爽やかな笑顔が眩しすぎて、それに動揺している自分に気が付き、思わず目を伏せた。

「はい、背筋を伸ばして」

時折、河合さんの厚い胸板が思いもよらず、すぐ近くに感じられる。
ドキドキ、ドキドキ……。
自分の心臓の音が河合さんに聞こえてしまわないか、ふと不安になる。
姿勢を変えると、家を出る時に思い立って首元に付けた爽やかなフレグランスの香りが
鼻をくすぐる。それと共に、隣の男のコを好きだった高校時代のように、キュンと甘酸っぱい気持ちが胸いっぱいに広がった。

「こんにちは」

「あっ、麗子さんこんにちは。
麗子さんって、いつもオシャレですよね。そのパンツ、お似合いですね！」

「嬉しい！
名トレーナーのおかげかな（笑）」

このパンツは余分な肉が削げ落ちスラリとした自分のカラダへのご褒美にと、
先日購入したものだ。

そう、トレーナーの河合さんの爽やかな笑顔と的確な指導のもとに、
ここ３か月で内腿がスッキリとし、ウエストも8cmサイズダウンしたのだ。
さらに、河合さんに２週間に１度会うのだと思うと、つい手が出てしまう大好物のスイーツも
「キレイでいるために我慢しなくちゃ！」と控えるようになった。
でも、それだけじゃない。
河合さんの言葉どおり、この３か月で得たのは、スッキリとしたカラダと
そしてもう一つ、「女」としての自分。

「あれ？　麗子痩せた？　トドよばわりを撤回しなくちゃな（笑）」

「気づいた？　あなたにキレイってもう一度言って欲しいから、最近頑張ってるの」

夫がまんざらでもなさそうに笑みを浮かべる。
相変わらず、単純！　頭の中にふと浮かんだ河合さんの厚い胸板に比べ、IT関係の会社に勤める夫の胸板がずい分と薄っぺらに感じる。
でも、胸板はさておき、そんな単純なところが夫のいいところだ。

「今度、母さんに子供を預けて二人で食事にでも行こうか？
ヘルシーにお寿司なんてどう？」

「わーっ、お寿司なんて久しぶり！
嬉しいな」

近頃、夫や子供に何だか優しくなれる自分がいる。
２週間に１度のエア恋心が、変わらず続く毎日に程よい張りをくれるからかもしれない。

「お寿司を楽しみに、今日は私が美味しいもの作るね！」

一緒に頑張りましょう！――トレーナーの河合さんの爽やかな笑顔がふと頭によぎり、
スーパーへと夕飯の買い出しに急ぐ足取りが軽くなった。

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