出張編集会議で話題になった、STORY世代が直面するひとつの人生の転機【離婚】。幸せに生きるとは何か。実録を元に、手放して涙を流した分だけ見えてきた心と、自分で人生を選ぶリスタートの瞬間に迫ります。
【ケース1】離婚きっかけに、14年のブランクを越え復職
◯ 松村美穂子さん
28歳で結婚して42歳で11歳年上の夫と離婚。小学生と中学生の母で44歳。現在はアニメエンタメ系の学校の会社員を勤めながら副業で動画編集なども行う。
◇ 〝お母さん〟から 一人の女性に戻った感覚が楽しい
「俺がいるからご飯が食べられる」。典型的な昭和の価値観と、積み重なる夫の暴言に、おばあちゃんになっても一緒にいる未来は描けませんでした。
離婚を決断した頃がコロナ禍で動画が突破口に。子どもが幼稚園に行っている間に、在宅でアドビを学び、プラットフォームで動画編集の仕事をスタート。「今さら何もできない」と見下されるたびに、心の奥で火がつき、少しずつ自分で稼げるようになると、泣いて終わっていたケンカにも言葉が返せるようになった。
仕事用に背筋の伸びる服を買い、結婚生活14年間一度も夜のお出かけができなかった自分に女性らしい服を買い、専業主婦の〝楽な服〟から、〝私に戻る服〟へ。何を買うにも顔色をうかがっていた日々から、すべてを自分で決められる今へ。
家を出た夜から、静かすぎる部屋で2週間泣き続けました。子どもの足音や声の代わりに、遠くの咳払いが響く孤独。でも、自由は自分の責任だと腹をくくって。
無職では家も借りられない。不動産屋で涙を流しながら部屋を探し、予定を埋めた。アルバイトに動画編集、エンタメ企業への就職活動。TO DOで一日を埋めていくと、悲しむ隙がなくなる。気づけば「私、一人でも生きていける」と思えていました。
人生ゲームのコマを自分で進める感覚。2年経った今、結婚していた頃より生きる活力に溢れています。親権は夫へ。10年育てたから、次の10年はバトンタッチ。
離婚は特別じゃない。周りの目のための幸せより、自分の人生を生きる勇気を。この先の人生プランが次々湧いてくる今、とても充実しています。
【ケース2】最も大切なものを「手放す」選択を
◯ Aさん
結婚生活20年以上。専業主婦を経て好きなことを仕事に社会復帰。現在、2児の母として仕事と育児の両立中。
◇ ここからが自分の人生とステップアップ
長い結婚生活の中で信頼が揺らぐ出来事があり、「これだけは譲れない」という自分の声を、初めて優先しました。大切にしてきた関係や家族という形を手放す決断は、自分の心を守るための選択。
これまで「いい人でいなければ愛されない」と思い込み、周囲に軽く扱われたり評価されないことに傷つきながらも笑顔でいました。でも離婚を決めてからは 「私はどうしたい?」と自分に問い、軸を自分に戻すと人間関係も変わりました。その頃、自立して活躍するパワフルな方々との出会いがあり、その姿に触れ 「私ももっと高い場所を目指せるかも」 と思えるようになったのです。
どんな出来事も次のステージへの導き。そのエネルギーが前へ進む力に。再びおしゃれを楽しみ、鏡に映る自分にワクワクできたとき「ここからが私の人生」と心から思えたのです。
<専門家に聞いた>離婚は人生最大のストレス。 立ち上がるためにできることは?
教えてくれたのは、銀座泰明クリニック 院長 茅野 分先生

離婚や配偶者との別離は人生で最も強いストレスの一つです。強い衝撃を受けると、脳では恐怖や怒りを司る扁桃体が過敏になり、感情を調整する前頭前皮質の働きが乱れ、不眠や不安、気分の落ち込みが起こります。
特に「朝早く目が覚める」「朝が憂鬱」という状態は典型的なサイン。やる気が出ない、自分を責める、それは意思の弱さではなく、強いストレスへの反応です。
離婚には二重のダメージがあります。裏切りやモラハラによる傷、そして「離婚を決断する」という大きな選択の負荷。長期のストレスは学習性無力感という無抵抗の状態を招き、適応障害など心身に影響を及ぼします。
◇ 精神状態が変化するのに必要な期間。まずは「3カ月」、自分の状況を俯瞰して
人には回復する力があります。大きな出来事からの影響は約3カ月が目安とされ、回復には段階があります。今の揺らぎは途中経過だと知ることが支えになります。
眠れない、食べられない、何もできないときは医療の力でその期間を短縮することも可能です。立ち上がる方法として、自分の思考を見直す「認知再構成」 があります。日記療法で気持ちを書き出したり、読書療法で新たな視点を得たり。
最近はAIに相談する人もいますが、大切なのは一人で抱え込まないこと。話す、書く、言葉にすることで、心の混乱は整理されていきます。これまで耐えてきた時間も無駄ではなく、離婚からの回復は生活や価値観を再設計するプロセスであり人生を自分の意志で選び直す始まりです。
◇ 「認知再構成」
「どうせ自分はダメ」という思い込みに「そんなことはない」という別の視点を意識的に差し出して考え方の偏りを整える心理療法。
撮影/沼尾翔平 取材/小仲志帆 ※情報は2026年5月号掲載時のものです。













