奈良時代から1300年にわたって雅楽を受け継ぐ楽家(がっけ)に生まれ、雅楽器の持ち味を生かした唯一無二の表現や、ジャンルを超えたコラボレーションで活躍する東儀秀樹さんが、今年デビュー30周年を迎えます。今秋には30周年を記念したコンサートツアーがスタート。“ちっち(CICCI)”の愛称でSNS等にもよく登場している愛息・典親さんも参加します。仲良し親子のお二人に、東儀家の流儀や雅楽の魅力、コンサートへの意気込みなどを伺いました。
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「ちょっと座りなさい、今からお稽古をやります」なんてことはやったことがない
――『東儀秀樹 30th アニバーサリーツアー ~悠久と革新のTOGISM~』が今年10月にスタートする東儀さん。ツアーには典親さんも参加されるのですね。
秀樹 ちっち(典親さん)が今回のツアーに参加することで、綿々と続いてきた日本の音楽が継承されるところも見てもらえたらと思いまして。そこのところも「バトンタッチしている瞬間を見たぞ」というふうに楽しんでもらえたら、節目のコンサートっぽくなるんじゃないかなと。そう思って、一緒にやることにしました。
典親 このところ、父と二人だったり、メンバーの中に入ったりして演奏することが増えていたので、その流れでツアーに参加することができて、とても嬉しいです。小学生ぐらいの時からいろいろな地方の公演について行って、同じ演目を違う角度から見て楽しんでいたんですけれども、本格的にツアーに参加できるのは初めての経験なので、意義のある機会になるなと思っています。
秀樹 コロナの前までは全国ツアーを毎年やっていて、ちっちもそれを楽しみに、一緒について回っていたんです。いつも舞台袖から見ている側だったのが、今回は自分も参加できるわけですから、彼にとってもすごく刺激的なことだと思いますね。
――典親さんは、ごく自然にいろいろな楽器を演奏するようになったそうですね。
秀樹 うちには雅楽器以外にもいろいろな楽器があって、ピアノからギターやシンセサイザー、ドラムやベースといった楽器があちこちに置かれているので、彼は小さい頃から文字通り“おもちゃ感覚”で触っていたんです。僕はそれを見ていて、「あれがやりたいんだな」と察知した時に「こうやって指を動かすといいよ」とアドバイスするぐらいで、「ちょっと座りなさい、今からお稽古をやります」なんてことは全くやったことがないんです。自分から興味を持って楽しんで、好きでそれをやりたくなるというのが、一番身につく方法なんですよ。
――東儀さんご自身はどうだったのでしょう?
秀樹 僕も、アカデミックな音楽教育は全然受けていません。雅楽だけは19歳から宮内庁楽部に入ってちゃんと習いましたが、ピアノにしても、家にあるのを触っていて自己流で覚えました。でも、音に関しての感覚は誰よりもあるという自覚は、子どもの頃から持っていました。1回メロディーを聴けば、譜面がなくても伴奏付きでピアノでいきなり弾ける子どもだったから。「どんなジャンルの音楽でも、楽しくやっていればなんとかなる」という気持ちもずっとあったので、そもそも「学校に行ってちゃんと習わないといけない」という感覚がないんです。
たぶん、ちっちは僕がいつも楽しそうに音楽をやっているところしか知らないから、それがまたいい影響になっている気がしますね。コンサートがあるからといって苦しそうに練習する姿なんて、見たことがないですから。まあ、それは僕が練習しないからなんだけど(笑)。
典親 確かに、父が音楽というものを本当に楽しんで演奏したり、作り出したりしているところをずっと見てきたので、雅楽に対しても、そのほかの音楽やいろいろな物事に対しても、“楽しいものである”と捉える感覚は、本当に小さい頃からありました。そういうこともあって、僕も苦に感じることなく音楽に溶け込んで、自然に「やりたい」という気持ちになったんじゃないかと思います。
――典親さんも、いろいろなジャンルの音楽に親しまれていますが、そういった中で雅楽をどのように捉えていらっしゃいますか?
典親 もちろん、音楽の一つのジャンルではあるんですけれども、原点が“儀式の音楽”だった雅楽には、実際に聞こえる音の表現以外に、いろいろな意味が込められているんです。たとえば、平安時代の陰陽道といった、当時の科学みたいなものが組み込まれていて、そういった特異な性質を持っているところに僕は惹かれています。父は、そういったものを“TOGISM”というジャンルで捉え、オリジナルの独自の音楽で解釈して表現しているんですが、それがまたとても面白くて。雅楽は、聴いて楽しむという点では他の音楽と隔たりはないですが、意味を捉えながら聴くことで、より面白さが広がるものなのだろうなと感じています。
秀樹 彼は知識欲が盛んで、本を読んだり、古い文献を調べたりするのが好きなんですよ。『古事記』はもう読み終えたらしくて、今の愛読書は『日本書紀』。柳田國男全集を読んで日本の民俗学に興味を持ったり、宗教学や哲学に興味持ったりした上で雅楽に立ち返るから、たとえば、僕が日本の楽器を弾いていると、ちっちが「その楽器のいわれは『古事記』にはこう書いてあってね」と話し始めたり、夕餉の時に「だから、きっと当時の人は、こういうふうに思ったんじゃないかな」なんて話をしたり。そういうことが日常的にあります。
――背景にあるものを具体的に知ることで、より味わいが深く豊かなものになりますね。
典親 それがとても楽しくて。たとえば、『古事記』や『源氏物語』といった古い文学作品を読んでいると、古代の日本の楽器や雅楽の楽器が出てきます。そういう楽器の音を実際に聴いたり、演奏したりという経験があると、物語のその場面がどういう場面なのか、より具体的にイメージが湧いてきて面白いです。その音は明るいのか切ないのか、華やかなのか素朴なのか……それを理解して読むだけでも、見えてくる情景は違ってきたりします。今回のツアーも、音に直に触れてもらうことで、そういった文学作品を読んだ際に頭の中で広がるものがより豊かになるきっかけになるといいなと思っています。
――最近は、中学校や高校に招かれた際もお二人でレクチャーと演奏をなさっていると伺いました。生徒さんのリクエストに応えて、J-POPも演奏されるとか?
秀樹 伝統だからといって難しい話をしたところで、伝わらないですからね。僕はそういう時こそ、楽しく楽器を知ってもらう好機会だと思っているんです。子どもたちが聴きたい曲を演奏することで、きっとより記憶に残ると思うし、そうすれば、いつかまた雅楽に出合った時に「知ってるよ」と言えるじゃないですか。さらに将来、平安文学を研究する人や音楽や哲学を研究する人が出てくるかもしれない。そんなふうに、いつかきっと広がる種を届けることを大事にしています。子どもたちにとっては、ちっちのような若い同世代が雅楽器を演奏する姿も、めちゃくちゃ刺激になると思いますよ。
典親 伝統芸能というだけで、なかなか入りにくいイメージがあると思うので、生徒の皆さんと年の近い僕が楽しんでやっている様子が、親しみやすさや「自分と同じような感覚の人間でも楽しめるものなんだ」という認識に繋がっていったらいいなと思っています。学校訪問の後、実際にそういう声をもらったりすると、僕自身もすごく嬉しいです。
父のことは、人間的な部分も音楽家としての姿も尊敬しています
――典親さんは現在19歳。反抗期はあったのですか?
典親 ないですね。父のことは、人間的な部分も音楽家としての姿も尊敬していますし、その背中を見て育ってきた自分が、目指したいと思う存在でもあったりします。
秀樹 思春期になると親と距離を置きたくなる人が多い中、赤ん坊の頃から距離がずっと変わらず一緒にいる僕らは、たぶんめちゃくちゃ珍しいパターンだと思います。難しい年頃だと、親が何か伝えようと思っても鬱陶しがられることが多いと思うんですが、ちっちはそういうことが全くなくて、僕の説明を全部ワクワクと聞いて吸い取ってくれる。しかもそれを昇華させようとしているところが頼もしいなと思いますね。
――目指したくなるような生き方を、東儀さんがなさっていることも大きいと思います。
秀樹 僕はとにかく、どこをとっても楽しいのがいいと思っているんです。もちろん信念はあるけれども、日常生活は本当にそれが一番だと思っていて。彼はそんな僕をずっと面白がって見てくれている。そうすると、こっちの責任感も強まってきて、「いつもちゃんと本気で生きなくちゃ」と思うんです。距離があれば、嘘をつこうがごまかそうが、気がつかなけりゃいいってことになるんだろうけど、僕らは日常的に親密で全部オープンなので、すぐに見抜かれますからね。ちっちの目線が、僕の生き方に影響しているところもあると思います。
――本当に素敵な関係性ですね。典親さんは、いわゆる恋バナ、恋愛話もされるのですか?
典親 いえ、そういう話はまだしたことがないです。そういう経験が伴っていなくて(笑)。でも、そういう時が来たら、そうなるのかなと思います。
秀樹 音楽や本を読むことに夢中になりすぎていて、あまりにもそういう浮いた話が聞こえてこないから、そこはちょっと心配なんですよね(笑)。ちっち、待ってるよ。
※インタビュー後編に続きます
とうぎ・のりちか/2006年、東京都⽣まれ。ギター、ピアノ、ベース、ドラム、笙、舞、作曲などを得意とする。19年9⽉に仁和寺での「⾳舞台」で初舞台を踏んで以来、数々のステージに加えて「ハマスカ放送部」「千⿃のクセスゴ︕」「沼にハマってきいてみた」といったTV番組にも出演。⾃⾝のロックバンドではギターボーカルと作曲を担当。東儀秀樹アルバム『NEO TOGISM』にギタリストとして参加するほか、メディアでの親⼦共演も注⽬を集めている。
『東儀秀樹 30th アニバーサリーツアー ~悠久と革新のTOGISM~』
2026年10月11日/福岡・FFGホール 12月12日/京都コンサートホール 大ホール 12月27日/石川・金沢市文化ホール 2027年2月23日/宮城・日立システムズホール仙台 シアターホール 3月6日/愛知・日本特殊陶業市民会館 フォレストホール 5月14日/東京・国際フォーラム ホールC 5月23日/大阪ザ・シンフォニーホール
出演/東儀秀樹 東儀典親 〆野護元(龍笛) 中村華子(笙) Keiko (ピアノ) 内田義範(ベース) 天倉正敬(ドラム)※公演により一部メンバーが変更になる場合あり ゲスト/三浦一馬(バンドネオン)※愛知・東京・大阪公演のみ
◎連動イベントとして『東儀秀樹×野村萬斎トークショー ~東儀秀樹デビュー30周年記念スペシャル企画~』を8月5日に東京・草月ホールで開催
https://www.bsfuji.tv/event/togihideki30th/
取材・文/岡﨑 香 撮影/沼尾翔平





















