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新田恵利さん(58)介護6年半で看取った母。「マラソンを完走したような達成感も」悲しみが”あたたかな記憶”へ変わるまで

母の最期は、人それぞれ違います。そばで見送れた人もいれば、会えないまま別れを迎えた人もいる。時間の重さも、受け止め方も、同じものはひとつとしてありません。それでも胸に残るのは、確かに過ごした時間と、その人の記憶。それぞれのかたちで抱えながら、いまを生きている人の物語です。

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新田恵利さん 58歳
歌手、タレント、エッセイスト、淑徳大学客員教授

看取った母の記録を綴り
悲しみはやがて明日への灯に

親を見送るという経験は、いつか訪れうるもの。けれど、その時が来るまでは、どこか遠い出来事のよう……。介護と看取りをテーマに講演やワークショップに精力的に取り組む新田恵利さん。その活動の原点にあるのは、6年半にわたるお母さまの在宅介護と看取りの経験。

「家を建てるなら海の近くがいい。昔から何でも話せる仲だったので、結婚しても母と一緒にいたくて」。最初こそ引っ越しを躊躇っていたお母さまも、湘南の新生活にすぐ馴染んでいきました。新田さんにとって、お母さまはただ仲のいい母というだけではありません。17歳、芸能界デビューした年に父が急死してからは、母娘で支え合うように生きてきました。仕事と学校の両立で多忙な日々のなか、父とはあまり話せぬまま別れたという後悔が深く残ったそう。

転機は ’14年。骨粗しょう症による骨折での入院をきっかけに、お母さまは寝たきりとなり、在宅介護が始まりました。前兆などなく、まさに青天の霹靂。会話がしづらくなり、眠る時間が増え、認知症の影も忍び寄ってきました。ろうそくの火が静かに小さくなっていくように、日ごとに命の灯が細くなっていったとか。

母が亡くなったら自分はどうなってしまうのだろう――それほど、大きな存在でした。けれど6年半、弱っていく姿に寄り添ううち、その時を少しずつ受け止めていきました。看取った瞬間に込み上げたのは、悲しみだけではありません。「マラソンを完走したような達成感。介護をやりきって看取れた、その充実感なのでしょうね」。

亡くなってから1年ほどは、新玉ねぎの季節やカレーの味といった日常の断片が、そのまま母の記憶につながり涙が出ました。それでも時が経つにつれ、悲しみよりもいい思い出のほうが少しずつ色濃く残るように。悔いなく見送れたという実感が、新田さんを前へと進ませたのです。

「親はいつか老いるとわかっていても、どこか他人事。でも私みたいに突然介護になることもある。だから、心構えや知識を持っていてほしいんです」。

その思いから生まれたのが、「過去書こ(かこかこ)ノート」。認知症が進むお母さまに書くことを続けてほしいと、試行錯誤する中でたどり着いた。あだ名、初恋の人、好きだった教科……問いに沿って半生をたどるうち、仲のよい母娘でも知らなかったことがいくつも見えてきました。親にも、親になる前の人生がある。その時間を知ることは、残される家族にとって大きな宝になる。母を見送った経験は、やり切ったという静かな手応えから、やがてあたたかな記憶へと変わっていく。その実感は今、同じ不安を抱え、人生の大きな節目に向き合う誰かをそっと支える力になっています。

  • 母の人生をたどる『過去書こノート』は、家族にはかけがえのない記録に、介護施設での会話の糸口にも。
  • 91歳の誕生日。この翌年に亡くなる。数度の入院、デイサービスを利用しながら在宅介護、最期の日は仕事を休み、自宅で看取った。
  • 旅立ちの日、新田さん自ら縫ったウエディングドレスを着せて送り、お母さまの夢を叶えた。

<編集後記>いつかに備える時間が 私の支えになるのかも 新田さんのお話をうかがい、「過去書こノート」は、子どもが親の終活を日常の会話の中でそっと手伝う営みなのだと感じました。昔話を聞くような気軽さで始められ、その時間を重ねておくことが、やがて訪れる別れの悲しみを、あたたかな思い出へと変えていく。今しかできない、大切な家族の準備のひとつになるのだと思いました。(ライター羽生田由香)

撮影/大森忠明 ヘア・メーク/陶山恵実 取材/羽生田由香 ※情報は2026年7月号掲載時のものです。

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