親が知らないところで、子どもの心は大きく揺れ、育っていく。そんな思春期に出会いたい【YA文学】、本のプロたちのオススメを集めました。親が読んでも子が読んでも、刺さる作品ばかり。心育む豊かな読書体験はいかが?
YA(ヤングアダルト)文学とは何?
◯ 教えてくれたのは、翻訳家・児童文学研究家・金原瑞人さん
<金原瑞人さん>
法政大学名誉教授。英米のYA文学を中心に、これまで660冊以上を翻訳し、その紹介と普及に長年尽力。日本に広く定着させてきた第一人者。作家・金原ひとみさんの父。
◇ 本は友だちと同じ。その子に合う1冊は出合ってみないとわからないものです
絵本の読み聞かせは習慣だったのに、気づけば子どもと本の話をしなくなった…そんなご家庭も多いのでは。小、中学校と進むにつれ子どもは自分で本を選ぶようになります。だからこそ思春期の入口の時期に、久しぶりに親子で本の話をしてみるのは案外悪くないと思うんです。
そこで知ってほしいのが、YA文学、つまり子どもと大人の間を生きる世代に向けた本。親が〝読ませる〟ものではなく、音楽やスポーツと同様に、その子自身が出合い、好きになっていくもの。夢中になる子もいれば、今はまだピンとこない子もいる。それでいいんです。けれど、心が揺れ動くこの時期に、知らなかった世界に出合うことは、その子の中に静かに残っていく何かがあると思います。
YA文学が広がるきっかけは1970年代後半のアメリカ。大人になっても本を読む人は、いつ読書習慣を身につけたのか。多くは幼少期を想像しますが、実際は中学・高校時代だったそう。当時の図書館には児童書と一般書の部屋しかなく、中高生の居場所がなかった。そこからYAコーナーが生まれ、若者のリアルな悩みを描く作品が広がりました。今のYAは小説のほか、コミックやグラフィックノベル、エッセイ、詩集、ノンフィクションまで幅が広く、学校、友人、恋愛、将来への不安といった10代の日常に近いテーマもあれば、知らない国や価値観へ連れていく本もあります。
とはいえ、読書に過剰な効能を期待しないで。僕は、本は友だちと同じだと思っています。誰かにとっての名作が、わが子の1冊とは限りません。感想を聞き出す必要も、最後まで読ませる必要もない。親にできるのは、自分が楽しそうに本を読むこと。そして、この子は今、何に心を動かされているのだろうと、眺めてみることではないでしょうか。親子の距離が以前より近い今、本を薦めるより、親子で本の話をしてみても。YA文学は、そのための新しい入口になるかもしれません。
▷▷ ここ数年、コミックも人気です
『サンドマン 7』
20年以上前に出た作品ながら、今も日本で刊行が続く傑作です。オールカラーで、えぐい場面もありつつ、内容はとても深い! ニール・ゲイマン(作)、金原瑞人(訳)/インターブックス。
『Roaming ローミング』
カナダの女の子3人がニューヨークで過ごす3日間を描いたグラフィックノベル。読んだ瞬間「これぞYA」と薦めたくなりました。マリコ・タマキ(作)、ジリアン・タマキ(画)、金原瑞人(訳)/トゥーヴァージンズ。
良いYA文学には「今」の子の問題や葛藤が詰まっています
◯ このテーマについて対談したのは…
<左>丸善ジュンク堂書店 兼森理恵さん
<中>歌人、本誌連載中のYouTuber「雷獣」メンバー ベテランちさん
<右>STORYライター 羽生田由香
◇ 背伸びしたい気持ちのまま、知らない世界にそっと出合わせてあげたい
羽生田
皆さんとYA文学の出合いとは?
兼森さん
新卒で児童書売場へ配属され、『カラフル(森 絵都)』に衝撃を受けました。「抽選に当たりました」というポップな書き出しなのに、自殺未遂した少年の話で。
ベテランちさん
僕は中学受験の勉強の延長で、『西の魔女が死んだ(梨木香歩)』とか、『世界の中心で、愛をさけぶ(片山恭一)』を小4で読んでたのを覚えています。
羽生田
娘の中学受験の国語の出典から自分がハマったパターン。
兼森さん
実はそういう親御さんも多いんですよ。私自身は思春期が早くて、9歳くらいで『愛の妖精(ジョルジュ・サンド)』を読んでました。子ども向けの文庫だったのに、内容はかなり大人で…。
ベテランちさん
わかります。僕も小4で『GO(金城一紀)』とか、『4TEEN(石田衣良)』みたいな直木賞作品を読んでましたね。同級生には、アウトローとかに憧れてる子もいました。
羽生田
まさに「背伸び」ですね。
ベテランち
そうですね。中高生って、大人の世界をちょっと覗きたいし、友だちや同級生の知らないことを知ってる自分ってかっこいいな、と。読書は、かっこつける手っ取り早い手段だったりします。
兼森さん
自分が知らない世界に手を伸ばす感覚は、今の子も変わらないような気がしています。
羽生田
なるほど。YA文学の効能とか教育的な意味より先に、思春期のその気持ちが大切なんですね。
兼森さん
だから「本を読ませなきゃ」って焦る親御さんには、無理に読ませる必要はないと伝えています。漫画でも映画でも、その子が「ちょっと大人になれた」と感じられる入口ならなんでもいいんです。
ベテランちさん
逆に、大人がその子の背伸びを面白がってくれると、もっと読むようになる気もしますね。
羽生田
私は子どもを通して、今どきの未知の世界を覗くような読み方をしていて。自分の10代の頃とは刺さる場所が違うのも面白い。
兼森さん
薦めるんじゃなくて、並べる。その子が今どこに憧れているかを見て、ちょっと背伸びできる1冊をそっと隣に置いておく。それが書店員の仕事かなとも感じています。
羽生田さん
親が読んで楽しむ姿を見せ、リビングに置いておくくらいがちょうどよさそうですね。
▷▷ 兼森さんRecommend
『崖の上のヒバリたち』
移動生活者の少年が、友だちから字を教わり、〝ヒバリ〟という言葉を自分の力で読めた瞬間、確かな希望が生まれていくんです。シヴォーン・ダウド(著)、エマ・ショード(絵)、宮坂宏美(訳)/東京創元社。
『女の子がハッピーに生きるための3つのこと』
沖縄の貧困家庭で若い母親と暮らす女の子の物語。社会問題や知らない世界を知る扉になり、前向きな家族の形をも見せてくれます。福木はる/講談社。
▷▷ ベテランちさんRecommend
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』
詩集ですが、中高生でも読みやすいです。教室でこれをこっそり読んでる自分がちょっとかっこいい、その感覚を持ってほしいです。最果タヒ/リトルモア。
『インストール』
綿矢りささんが17歳のときに書いた作品で、高校時代「今の自分にも書けるかも?」と刺激を受けた、背伸びしたくなった一冊。綿矢りさ/河出書房新社。
▷▷ 羽生田Recommend
『僕たちは我慢している』
息子も高校球児、毎日白球を追いかけながら帰宅後は勉強。主人公たちの文武両道との葛藤や進路の重圧に、高校野球の新たな面を発見。藤岡陽子/COMPASS。
『サクラ咲く』
辻村さんは中学受験の国語で頻出の作家。教室の片隅の、ちょっとした心の機微まで読める筆致に、娘の学校生活を重ねて没入しました。辻村深月/光文社文庫。
<本のプロが厳選、渾身の18冊!>
◆「教育と本」のプロが選ぶ本 ①
<左>『夏の庭-The Friends-』
この季節に読み返したい本として、真っ先に思い浮かぶ名作です。1992年の刊行以来、多くの読者に読み継がれ、映画化もされました!湯本香樹実/新潮社。
<中>『ユニコーンレターストーリー』
主人公二人の往復書簡で物語が進み、「次はどんな返事が届くのだろう」とページをめくるたび、自分宛ての手紙を開くようなワクワク感があります。北澤平祐/ホーム社。
<右>『カラフル』
車椅子ユーザーの同級生との出会いをきっかけに、「普通とは何か」「相手を理解するとはどういうことか」を、高校生たちが模索していくストーリー。阿部暁子/集英社。
<推薦者> 幼・小・中学受験コーチ・アドバイザー 齊藤美琴さん

◆「教育と本」のプロが選ぶ本 ②
<左>『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』
私の出身中学の国語の入試問題で使われたことでも話題に。平易な文章ながら、10代、大人までも刺さるメッセージが多く込められています。斉藤 倫(著)、高野文子(画)/福音館書店。
<中>『茶畑のジャヤ』
学校で孤立していた主人公をスリランカに誘ってくれるおじいちゃん、そこで出会った少女ジャヤなど、魅力的な登場人物たちが印象深い作品。中川なをみ(作)、門内ユキエ(絵)/鈴木出版。
<右>『わたしの美しい庭』
YouTubeチャンネル「ヨンデミーちゃんねる」でも紹介しているお気に入りの作品。さまざまな「生きづらさ」を抱えた人たちに寄り添う作品です。 凪良ゆう/ポプラ社。
<推薦者> オンライン習い事「Yondemy」代表取締役 笹沼颯太さん

◆「同世代ママ作家」が選ぶ本 ①
<左>『赤毛のアン-赤毛のアン・シリーズ1-』
中学生の頃、アンの話し方を真似するほどハマっていました。でも、この本の本当の魅力は何十年も後に実感。先日プリンス・エドワード島を一人旅!ルーシー・モード・モンゴメリ(著)、村岡花子(訳)/新潮社。
<中>『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
子どもに薦めて、この本について語り合った後、一緒に映画も観に行ったSF小説です。主人公の記憶を探る謎解きから、心打つ展開に夢中になります。アンディ・ウィアー(著)、小野田和子(訳)/早川書房。
<右>『獣の奏者』シリーズ
子どもたちが小学生の頃、夢中になって読んでいたシリーズです。出だしから一気に物語に引き込まれ、心ときめく世界観に心揺さぶられます。上橋菜穂子/講談社。
<推薦者> 作家 朝比奈あすかさん

◆「同世代ママ作家」が選ぶ本 ②
<左>『ひとたびはポプラに臥す』シリーズ
読んでいるうちに、自分が異国の地を実際に歩いているような錯覚に陥り、好奇心、冒険心、見知らぬ世界への憧れが増していきます。宮本 輝/集英社。
<中>『龍は眠る』
嵐の日、猫を探していた男の子がマンホールに落ちた。その蓋を開けた犯人は…。おじさん雑誌記者と超常能力者の少年が真相を追うミステリー。宮部みゆき/新潮社。
<右>『逆ソクラテス』
主人公の小学生が大人の決めつけや思い込みを自分たちの力で覆していく物語です。息子が中学校に入学する前に、これを読ませました。伊坂幸太郎/集英社。
<推薦者> 作家 藤岡陽子さん

◆「海外文学に強い」プロが選ぶ本 ①
<左>『エヴリデイ』
主人公のAは自分の肉体を持たない。朝、目が覚めると自分と同じ16歳の誰かの肉体に憑依している。そんな存在が特定の誰かに恋をしてしまったら…。デイヴィッド・レヴィサン(作)、三辺律子(訳)/小峰書店。
<中>『ゼバスチアンからの電話[新版]』
17歳の少女が恋愛でつまずき、もう一度自分を取り戻すまでの過程と、夫の言いなりだった彼女の母親が変化していく様子が重なります。イリーナ・コルシュノフ(著)、石川素子・吉原高志(訳)/白水社。
<右>『カッコーの歌』
11歳の少女トリスはとある事故に遭って以来、記憶をなくしている。彼女の正体がわかるにつれて広がるファンタジーの世界にどんどん引き込まれます。フランシス・ハーディング(著)、児玉敦子(訳)/東京創元社。
<推薦者> コラムニスト、翻訳家 山崎まどかさん

◆「海外文学に強い」プロが選ぶ本 ②
<左>『夜の日記』
楽しい想像だけではなく、おそらく自分は経験しない過酷な状況で生きる同年代の子の物語も。いまも世界のどこかで戦火のなかで暮らす人がいます。ヴィーラ・ヒラナンダニ(著)、山田 文(訳)、金原瑞人(選)/作品社。
<中>『バッファロー・ドリーマー』
少女の目を通して、北アメリカ先住民族の辛い過去だけでなく、居留地の美しさや伝統にも触れられます。過去の苦しみに向き合いながら未来への希望も。ヴァイオレット・ダンカン(著)、小澤なつみ(訳)、金原瑞人(選)/作品社。
<右>『相続ゲーム エイブリーと億万長者の謎の遺言(ぱらりBOOKS)』
ワクワクと胸躍る作品。莫大な遺産を相続してイケメンに囲まれながら知力と体力を駆使して謎解きをしながら成長していく、ごきげんなストーリー。ジェニファー・リン・バーンズ(著)、代田亜香子(訳)/日之出出版。
<推薦者> 翻訳家 代田亜香子さん

◯ 編集後記

撮影/吉澤健太〈人物〉、西原秀岳(TENT)〈静物〉 取材・文/羽生田由香 ※情報は2026年9月号掲載時のものです。
























