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ウクライナ危機の今読むと僅かながらどこか救われた気分に|大久保佳代子のあけすけ書評

弱者・被害者への多様な視点。あきらめた人生のその先へ

2020年7月から2021年7月まで読売新聞朝刊に連載されていた角田光代さんの小説。紛争、難民、災害へのボランティア、戦争の遺恨、パラリンピック、不登校、そして誰もが持つタラント(才能、使命、賜)など多岐にわたるテーマが20年ほどの時空を交差しながら共鳴し合う大長編。

読み終えた時、妙なワクワク感とじんわりとした安堵感が。収束が見えそうで見えないコロナ禍で、「今、だれもがスタートを待っている」と希望に満ちたラストはまさに今ならでは。さらにロシアによる残虐なウクライナ侵攻のニュースを見聞きしなければならない今の憂鬱な日常ともオーバーラップし、今読んでおいて良かったと思える小説でした。

主人公みのりは、大学時代からある時期までボランティア活動をし、正義感から難民キャンプに暮らす少年の手助けを。しかし、その手助けが本当に正しかったのかと悩み続けます。ボランティアって難しいです。常に「偽善」や「いい人ぶっている」という言葉が付きまとってきますから。

私も、大学時代所属していたお笑いサークルで老人ホームなどの施設を慰問する機会が。当時「良い事をしている」という充実感に満ちていましたが、今、冷静に思い返すと学生気分の旅行感覚でワイワイやっていただけのような気がしてなりません。ボランティアって、いい人ポジションになった瞬間に嫌な気持ちになったり、弱者と支援者という関係性に違和感を覚えたりと感じることは様々ですが、登場人物それぞれが活動に関する多様な視点を示してくれていて気持ちが軽くなります

あと情報番組でコメントを言う機会のある私は、コメントを探すためにニュースを見ているところがあります。コメントのためにウクライナの現状から何かを感じようとしている時点で「ひどい人間なのでは?」と自問自答したりすることも。

「比べたらだめだ。つらさの大小を、苦しみの大小を、失ったものの大小を比べた途端に、私たちは想像を放棄する。そして断絶してしまう」という文があるのですが、比べることで何かを感じとろうとしていたこともあり非常に胸に刺さりました。何ができてどこまでするべきか、知れば知るほど 考えれば考えるほど目をそむけたくなる時には、「辛かったら見なくてもいいんだよ」とも。

登場人物の誰もが生きるため、生活するために悩みながら、傷つきながらも懸命に前へ進んでいこうとします。揺るぎない覚悟と輝かしい使命感を持って生きる人もいれば、自分の使命を見失い、過ちへの後悔から立ち上がれず自分を持て余す人もいたり。改めて人は様々なのです。

大きかろうと小さかろうと自分の使命を自分のペースで全うしようとすればいいのだと思います。最終的には、みのりの祖父・清美さんが「なんちゃせんでも、ええ」 と言ってくれますから。なかなか感想が難しい本ですが、様々な感覚を抱きそれぞれの感情を持てる箇所は山ほどあると思います。コロナ禍が収束したら自分にもあるはずのタラ トを信じ、装丁にある絵のように 歩を踏み出し跳んでみたいなと久しぶりに前向きな気持ちになりました。

『タラント』 角田光代 中央公論新社 ¥1,980 大学時代ボランティアサークルに入っていたみのりは正義感から犯した過ちに心の傷を負い、無気力な39歳になっていた|。登場人物の葛藤と逡巡に共感しつつ今ある紛争の惨状に無力感を覚える、今とリンクするタイムリーな長編。詳細はこちら(amazon)


おおくぼかよこ/’71年、愛知県生まれ。千葉大学文学部文学科卒。’92年、幼なじみの光浦靖子と大学のお笑いサークルでコンビ「オアシズ」を結成。現在は「ゴゴスマ」(TBS系)をはじめ、数多くのバラエティ番組、情報番組などで活躍中。女性の本音や赤裸々トークで、女性たちから絶大な支持を得ている。

撮影/田頭拓人 取材/柏崎恵理 ※情報は2022年6月号掲載時のものです。

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