繊細かつ柔軟な演技で、幅広い作品で活躍する向井理さん。知的で品のある佇まいとスラリとした長身が印象的ですが、実は「食べることが大好き」だそう。10月に舞台『ブランク』への出演が控える充実の44歳に、お芝居のことや食へのこだわり、子ども時代の話など、じっくりと伺いました。
「本当はこの人、どう考えているんだろう?」と思いながら演じています
――『ブランク』の作・演出家は、2023年の舞台『リムジン』で初タッグを組んだ倉持裕さんです。出演オファーはいつ頃あったのですか?
正式なオファーは、たぶん『リムジン』の公演が全部終わって、しばらくしてからだと思いますけれど、倉持さんご本人には『リムジン』の地方公演中、お酒を飲んでいる時に「またやろうよ」と言っていただいて、「ぜひまたやりたいです」というふうにお話ししていました。そうはいっても実現しないことは往々にしてあるので、正式にお話をいただいた時は嬉しかったですね。本気で言ってくださっていたんだな、と。
――倉持さんは、前作で向井さんが“言葉で説明できない感情を捉えるのが抜群に速くて的確な俳優”だと実感して、またご一緒したいと思われたとか。
ありがたいです、本当に。もちろんいつも、台本は台本として、その通りにやっていますけれども、僕は、それがそのままその人の感情とは限らないなと思っているんです。人間は嘘をつくし、思っていることと真逆のことを言ったりするから。それで、額面通りにやることも大事なんですが、「本当はこの人、どう考えているんだろう?」と思いながら演じているところがあります。そこを疑ってやるのと、そのまんまやるのとでは、やっぱりちょっと見え方も違ってくると思うので。そういう考え方やセンスみたいなものが、たぶん『リムジン』でなんとなく倉持さんと共有できたのかなと思います。『ブランク』にもそういうところが結構あるんですよ。「この人、裏腹なことを言ってるな」と思うような場面が。
――確かに、疑いを持つか持たないかで、キャラクターや場面の深みや奥行きがだいぶ違ってきますよね。『ブランク』の脚本を読まれた印象はいかがでしょう?
『リムジン』もそうだったんですが、力技が通用しない、すごく繊細な作品だなと思いました。会話劇で、劇的に何かが起こるわけではないので、緻密に作っていかないと、たぶん倉持さんが作りたい世界を構築できない。演じるほうにとっては、とても難しいと思いますし、とにかくセリフが多いのでちょっと困っております(苦笑)。
でもきっと、実際に立ってやってみると、面白くなってくるだろうなとも感じています。『リムジン』同様、本当はどうだったのか? 今後どうなるんだろう? という部分をはっきりさせないところも、僕はすごく素敵だなと思っていて。結末の着地点が絶妙になるように、丁寧に紡いでいきたいです。
――向井さんが演じるのは、弁護士の浅香賢介。気になる女性の経歴の空白期間(=ブランク)について、知りたい気持ちと知らずに済ませたい気持ちの間で揺れ動きます。人物像をどう捉えていらっしゃいますか?
どちらかというとツッコミの人なので、間を外さないようにしないといけないなと思っています。役柄的にはエリートといいますか、プライベートは別として、仕事は真っ当にやってきた人で、責任感も実績もある。とはいっても、完璧ではないし、男性の更年期なのか、仕事のプレッシャーなのか、ちょっと不安定で、イライラしたり、ピリピリしたところもあって、等身大の人間だなと思います。
舞台は本当に身体が資本、呼吸法も違うのでエネルギーを使います
――年齢設定も向井さんと同じ40代半ばですが、向井さんご自身は“男性の更年期”みたいなものは?
特に感じてないですね。もちろん個人差はあると思いますし、体調や気分の変化が急に現れることもあるんでしょうけれども、個人的には40代というと、どちらかというと、まだまだ働き盛りというイメージがあります。僕自身は今のところ不調なところはないですし、そんなに疲れもないです。
――役柄としては、すでに老眼が始まっているような描写がありますが、向井さんは老眼はどうですか?
僕は目がいいんです。昔は2.0ありました(笑)。そう話すと、よく「目がいい人は老眼が早い」と言われるんですが、“視力がいい人はボヤケた世界を見たことがないから気付くのが早いだけで、もともと視力が悪い人は老眼になったことに気付いていないだけ”というのが、僕の持論です。そういう意味では、ちょっと気付き始めていますね。最近、生まれて初めてボヤケたものを見るようになりました。でも、老眼鏡をかけるには早いと思うので、目のピント調整に関係している毛様体筋(もうようたいきん)を筋トレして、もうちょっと抵抗していきたいですね。
――さすが理系の向井さん。身体のために普段の生活で心がけていらっしゃることがあったら教えてください。
やっぱり食べ物ですかね。当たり前ですけれども、暴飲暴食はしないで、その季節のもの、旬のものを意識して食べるようにしています。それが日々の中で季節の変化を感じる楽しいところでもありますし。もちろん、時間がある時は自分でもご飯を作ります。あと、買い物をする時は、無意識的にパッケージの裏を見てますね。
――裏というと、食品表示ですね?
はい。単純に食べることが好きなこともあるんですが、やっぱり食べ物は身体に摂り入れるものというか、身体をつくるものなので、どこ産なのかな?とか、添加物は? とか気になってしまって。面白いのが、そういうことをしていると、子どもたちも気にし始めるんですよ。「お父さん、この生ハム、ちゃんと塩だけだよ」とか「(添加物の)これがダメなんでしょ?」とか、一緒に買い物をしていると教えてくれるようになって。
――お父さんをちゃんと見ていて、学んでいるお子さんたち、素敵です。ある意味、一つの食育になっている気がします。それにしても、食べることが大好きなのに一向に体形が変わらない向井さん。何か体形維持のためにやっていることはありますか?
いえ、何も。ただ、舞台をやっていることは、一つあると思います。劇団☆新感線の作品や『ハリー・ポッターと呪いの子』は、ワンステージ出演すると、きれいに1キロ痩せるんです。それだけエネルギーを消費するわけで、単純に運動量が多いことよりも、発声でインナーマッスルを使っていることが関係している気がします。映像作品とは、喉の使い方や呼吸法も違うので。大きな劇場ではマイクを使いますけれども、マイクを通しても音圧は増幅できないんです。演者の表情まで見えない大きな劇場では、より声のお芝居が大事になってくるのに、声や音圧が小さいとそれが届けられなくなってしまう。舞台は本当に身体が資本だなと、いつも感じます。
M&Oplaysプロデュース『ブランク』
地方都市に法律事務所を構え、クセの強い依頼人たちを相手に多忙な日々を過ごしていた弁護士・浅香賢介(向井理)。軽い交通事故をきっかけに清掃会社の社員・米原佐知子(西田尚美)と出会った彼は、彼女の経歴に空白期間があることを知り……。
作・演出/倉持裕 出演/向井理 西田尚美 入野自由 森優作 中井千聖 池津祥子
2026年10月3日~25日/本多劇場 広島、愛知、新潟、宮城、富山、大阪公演あり
https://mo-plays.com/blank/
取材・文/岡﨑 香 ヘアメイク/宮田靖士(THYMON Inc.) スタイリスト/外山由香里 撮影/田中駿伍
衣装協力/ジャケット¥139,700 パンツ¥59,400(ともにMACKINTOSH) シャツ¥50,600(OVERCOAT)
お問合せ/MACKINTOSH:電話03-5843-1580(マッキントッシュ 六本木ヒルズ店) OVERCOAT:info@overcoatnyc.com (株式会社大丸製作所3)

















