エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「性教育」について。
小島慶子さん
1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜’23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外の大学に進学し、’24年から10年ぶりの日本定住生活に。
『人権の観点で捉えた〝性教育〟の重要性に注目!』
親子でお風呂タイム! 懐かしいですね。一緒におもちゃで遊んで、10まで数えて。ちなみに、国によっては子どもに親の裸を見せることや裸での身体接触が性的虐待とみなされることがあるので、注意が必要です。赤ちゃんや幼児をお風呂に入れる時には、親は服を着たままという文化もあるのです。
裸の付き合いをしている日本の親子関係では、子どもから人体について素朴な疑問が発せられることもよくありますね。そんな時に私ははぐらかさず、真面目に答えていました。3歳児や5歳児にわかる言い方で、人体へのリスペクトを込めて、仕組みについて一問一答で伝えました。命って不思議だね、自分と似ている体も、そうでない体もあるね。いろんな体があって、どの人の体も、世界に一つの大事な体なんだよ、と。
私がそういう姿勢を学んだのは、中学高校で生物を教えてくれた先生方からです。授業では受精の仕組みや人間の生殖の話も詳しく習いましたが、いやらしいとか恥ずかしいという空気はゼロ。性や生殖に関することは命の複雑なありようそのものであると、先生方の真摯な姿勢から学ぶことができました。本当に感謝しています。
結婚5年目に、あることをきっかけに夫が性と生殖と人権についてなにも知らないことが判明して、強い衝撃を受けました。無知って暴力だな!! と痛感し、息子たちには正確な知識と、体と命をリスペクトする姿勢を教えなくてはと思いました。人をモノのように扱ったり、人間に線引きをしたりしないようにするには、性と生殖に関する知識が不可欠だと知ったのです。
子どもの頃に学び損ねたままおじさんになっていた夫は、30代で妻の信頼と尊敬を失ってからも現実から目を逸らし続け、ようやく自身の無知を認めて学び直し、人権について腹落ちして理解するのになんと50代まで、20年以上もかかりました。死ぬまで気づかないよりはいいけど、遅すぎますよね。20年かけて気づいた夫も大変だったろうけど、20年かけてなぜ無知であることが問題なのかを説明し続けた私も死ぬほど大変でした。
だから、息子たちには幼い頃から体の仕組みを教えるだけでなく「自分の体は自分のものだよ。あなたの体と命は、誰も好き勝手にすることができないんだよ」とも繰り返し話しました。つまりあなたも、他の人の体を支配してはならないんだよと。彼らは小学生の時にオーストラリアに移住して詳しい性教育と同意教育(相手の同意の有無を確認し尊重するコミュニケーションのとり方についての教育)を受けました。母親から聞いた基礎知識があったので、抵抗なく理解できたようです。
最近、包括的性教育ってよく聞きますよね。単に体や生殖の仕組みを教えるだけではなく、性を人権の観点で捉える包括的な教育です。自身を尊び、相手を尊び、違いを尊重して対等な関係を築くための幅広い知識を身に付けること。自身の体と性についてNOもYESも言うことができると知ること。性暴力の加害者にも被害者にもならないためにも、そうした「性と生殖に関する健康と権利(SRHR: Sexual and Reproductive Health and Rights)」について知ることがとても大切です。
SRHR(性と生殖に関する健康と権利)について学ぶと、「私の体は、私のもの」「他人の体を好き勝手にしてはならない」という基本姿勢が身に付きます。すると性暴力だけでなく、たとえば国が人々に子どもを産ませようとすることも、産ませないようにすることもあってはならないし、〝ふつう〟の性のあり方や〝ふつう〟の体を決めて、当てはまらない人を差別したり排除したりすることもあってはならないとわかります。
他者の体を尊ぶことは、多様な性のあり方だけでなく、人種や障害などの違いを知り、互いを尊重することにも通じます。自分とは異なる体の人や、異なる選択をする人と平和的に対等に共存するためには、どのような合意やルールが必要かを考えることにもつながります。また、他者への想像力を育み、現在弱い立場に置かれている人や抑圧されている人に思いが及ぶようになります。そして自分が困った時にも、助けを求めることができるようになります。これは生きていく上でとても大切な力です。
さて、あなたはどんな性教育を受けましたか? 雑誌や性的な動画などでなんとなく「学習」しただけという人が大半ではないかと思います。それは何を「学んで」しまったのでしょう。もしかしたら、性=いやらしいものという気持ちが強いかもしれませんね。現在、日本では文部科学省が「生命(いのち)の安全教育」と称してSRHRについて周知を進めています。一方、性教育に否定的な政治家などの影響もあり、妊娠や性交については教えないという「はどめ規定」が設けられ、子どもたちが正確な知識を得る機会が制限されています。まずは親がSRHRについて正しく知って、子どもと一緒に考える機会を増やしたいですね。
文/小島慶子 撮影/河内 彩 取材/石川 恵 ※情報は2026年12月号掲載時のものです。
























